小説 『落日燃ゆ』城山三郎 城山三郎の『落日燃ゆ』です。 発行されたのは1974年。 太平洋戦争終結後、軍人以外の文官で唯一、A級戦犯として死刑となった政治家、広田弘毅の生涯を描いた伝記小説。 実を言えば、この小説を読むまで広田弘毅(ひろたこうき)の名前は意識したことはありませんでした。 全体に、冷静な文章で淡々と描かれた小説です。 広田弘毅は明... 2019年4月20日 十六夜亭
ミステリー 『盤上の向日葵』柚月裕子 柚月裕子の『盤上の向日葵(ひまわり)』です。 昨今の将棋ブームを予言するかのように描かれた将棋をモチーフとしたミステリー。 読みごたえがありました。 平成6年の夏、白骨化した遺体が埼玉の大宮市郊外の小高い山中から発見される。 遺体の側からは初代菊水月という駒師が作ったとされる将棋駒の名品が見つかる。 なぜ遺体の傍らに最... 2019年4月1日 十六夜亭
小説 『武曲』藤沢周 藤沢周の『武曲(むこく)』です。 タイトルからして読めませんでした。 ページを開き、最初から緊張感を持つ一つひとつの語句が疾走するような文章で、これは骨のある小説だなと。 “守破離”、“非有非空”、“斬心明鏡”、“滴水凍水”といった「偈(げ)」といわれる耳なじみの薄い漢詩の一節のような禅の言辞が多用され、そのことに惑わ... 2019年3月22日 十六夜亭
小説奥田英朗 『向田理髪店』奥田英朗 奥田英朗の『向田理髪店』です。 久しぶりに読む奥田英朗の作品。 彼の小説は読めば面白いのは、わかっている。 はずれることは、あまりない。 本作も、そうした期待を裏切ることない連作短編集だった。 雰囲気的には『家日和』や『我が家のヒミツ』あたりと同じ流れを汲む作品ともいえる。 まぁ、奥田作品の中では佳作といったところでし... 2019年3月4日 十六夜亭
ミステリー 『それまでの明日』原尞(りょう) 原尞(りょう)の『それまでの明日』である。 14年ぶりの新刊だという。 書店で本書を見たときには「おやおや、原尞が新刊を出したんだ!」と。 懐かしいと同時に、あの文体がまた読めるのかと、つい衝動買いしてしまった。 自宅に帰り、さっそく読み始めたが…。 最初の数ページを読み「おいおい、今どきスマホどころか携帯電話すら持た... 2019年2月11日 十六夜亭
歴史・時代小説藤沢周平 『よろずや平四郎活人剣』藤沢周平 藤沢周平の『よろずや平四郎活人剣』です。 十数年前に読んで以来、本作を読むのは二度目。 ずーっと、また読みたいなぁと思っていた。 連作の短編集で結構、長い作品だが今回も面白く読むことができた。 娯楽時代劇という言葉がこれほどピッタリな小説はないのではなかろうか。 まず、詩情がありユーモアがある。 そしてラブストーリーも... 2019年1月14日 十六夜亭
ノンフィクション 『無私の日本人』磯田道史 磯田道史の『無私の日本人』である。 本作は穀田屋十三郎たち、中根東里、大田垣蓮月という人物たちの生きざまを描いた三部の評伝で成っている。 いずれも苛烈なまでの慈恵の心を持った清廉な市井の人たちである。 ノンフィクションではあるが小説のようにも描かれ、その語り口は、司馬遼太郎とも似ている。 そういえば、司馬遼太郎は日本が... 2018年12月23日 十六夜亭
歴史・時代小説万城目学 『悟浄出立』万城目学 万城目学の『悟浄出立』である。 久しぶりに読む万城目学の小説。 『鴨川ホルモー』や『偉大なる、しゅららぼん』といった長編の摩訶不思議な面白青春小説は読んだことはあるが、そうした系統でない、しかも短編の小説は初めて読んだ。 なんか、作者の底力を見せられた感じ。 当初は短編集だとは思わず最初の「悟浄出立」の一篇を読み終え、... 2018年10月20日 十六夜亭
小説 『羊と鋼の森』宮下奈都 宮下奈都の『羊と鋼の森』である。 なるほど、タイトルの『羊と鋼の森』とは、ずばりピアノのことだったのですね。 ピアノという楽器は、本書でも説明されている通り、鍵盤を押すとボディーの中に張られた鋼鉄製の弦(ピアノ線)をハンマーが叩いて音を出すという構造になっている。 つまりは羊はハンマーに張られたフェルト。 鋼は、ハンマ... 2018年9月23日 十六夜亭
小説 『赤目四十八瀧心中未遂』車谷長吉 車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』である。 口当たりのよいものばかりが好まれる時代だが、本作は時代におもねることのない、なんともパンキッシュな小説だ。 我が家の朝食は、いつもNHKラジオの朝の番組が流れているのだが、その中でパーソナリティの高橋源一郎が昔、車谷長吉の人生相談が面白いと紹介していたのが気になり、どんな小説... 2018年8月28日 十六夜亭
ミステリー 『限界点』ジェフリー・ディーヴァー ジェフリー・ディーヴァーの『限界点』である。 翻訳は土屋晃。 原題は『EDGE(エッジ)』。 “EDGE”を辞書で引くと「〔競技などで〕小差[僅差]で勝つ、接戦をものにする」という意味も載っている。 そうした意味ではタイトル通りの内容である。 アメリカには証人保護プログラムという制度がある。 重大事件の関係者や犯罪の司... 2018年8月13日 十六夜亭
小説 『波の音が消えるまで』沢木耕太郎 沢木耕太郎の『波の音が消えるまで』である。 なんというか、じつに男に都合のよい小説である。 という訳で、男の自分としては、ある種のヒリヒリするような憧れをもって読み終えた。 作者の沢木耕太郎は、自分が学生の頃、ライターを目指そうとしていた人たちにとってカリスマだった。 自分の周りにも、そうした先輩がいたが酒を飲みながら... 2018年7月29日 十六夜亭
ミステリー黒川博行 『疫病神』黒川博行 黒川博行の『疫病神』である。 『疫病神』シリーズの第一作。 最近の『疫病神』シリーズを知っている身からすれば、主人公の二宮とやくざの桑原との丁々発止のやり取りが少なく、やや物足りない。 しかし、これは第一作ということもあり、仕方のないところ。 これだけを読んで、本作以降のシリーズを読まないのはもったいない。 疫病神po... 2018年7月1日 十六夜亭