『一人称単数』村上春樹
村上春樹『一人称単数』
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村上春樹の『一人称単数』です。
6年ぶりの短編集だそうです。
個人的には「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」と「品川猿」という作品あたりが好きかな。
以下、収められている作品の感想を簡単に…。

Contents

石のまくらに

作中でその昔、主人公と寝たという若い女性の短歌がいくつか紹介されている。
決してうまいとはいえない不思議な短歌。
この短歌、作中の彼女の短歌として紹介されているわけだが、実際に創作したのは村上春樹。
村上春樹の短歌としても読めるのだろうか?
いつか村上春樹が自身の作品として紹介する短歌や俳句を読んでみたい。

クリーム

不思議な話だ。
高校生の主人公が彼女のピアノの発表会に行ったが発表会はやっていない。
仕方なく来た道を戻るが、途中、体調が悪くなり公園で休憩をとる。
四阿(あずまや)で休んでいると、不思議な老人と出会う。
その関西弁の含蓄のある喋りは、だいぶ昔に亡くなった作家の開高健のよう。
開高健なら「フランス語に『クレム・ド・ラ・クレム』という表現があるが、知ってるか?」とか、いいそう。

チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ

チャーリー・パーカーがアントニオ・カルロス・ジョビンと録音したという、架空のボサノバのレコード評が上手い。
これを読めばいやでもスタン・ゲッツの『ゲッツ・ジルベルト』や『ザ・ベスト・オブ・トゥー・ワールズ』が思い浮ぶ。
チャーリー・パーカーとジョビン。
いったい、どんな雰囲気のアルバムになるのだろう。
もし、聴けることなら自分も聴いてみたい。

ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles

ちょっと、もの悲しい青春小説。
私小説的なものを感じるが、違うのだろうか?
ほとんどは主人公の僕と付き合っている彼女の兄と、二人きりで対峙したときの様子が描かれる。
こんなに饒舌に関西弁を話す登場人物は珍しい。
主人公と、もう一人の登場人物の二人だけの濃密な時間が描かれているせいか『中国行きのスロウ・ボート』という短編集に収められている『午後の最後の芝生』という短編を思い出した。
『午後の最後の芝生』のような瑞々しさはちょっと、ないけど。

ヤクルト・スワローズ詩集

短編小説?
いやいや、これはエッセーではないのか?
ヤクルト・スワーローズ詩集の一篇か二篇は、どこかの短編だったかエッセーで読んだことがある。
確か「マニエル」についての詩だったような気がする。
このところ、急に彼の肉親について描かれた作品を読む機会が増えたような気がする。

※追記
調べてみたら村上春樹と糸井重里が交互にショートショートを紹介している『夢で会いましょう』という本でした。詩のタイトルは「チャーリー・マニエル」。本作では、他にも数編、ヤクルト・スワローズの詩がいくつか掲載されている。

謝肉祭(Carnival)

「彼女は、これまで僕が知り合った中でもっとも醜い女性だった―」という書き出しで始まる。
こんな風に書かれれば、自分の記憶を手繰りだし「自分が知ってる、もっとも醜い女性って誰だったけ?」と思わずにはいられない。
申し訳ないけど、数人の女性の顔が頭をよぎった。
だけど、もやっとした顔の記憶が数人思い浮かぶだけで、もっとも醜い女性をその中から選ぶことはできなかった。
彼女らがもっとも醜いなんていう風には思ったこともなかったし…。
物事に白黒つけるのは、案外、苦手なのだ。

品川猿

ずいぶんそっけないタイトルだが、中身は面白かった。
考えてみれば村上作品には人間ともつかない、人の言葉を話す得体のしれないものがイロイロ登場する。
品川猿もその類型か?

一人称単数

バーでの男と女、二人のシーンを切り取ったスケッチといってもいいような物語。
理不尽なめにあった男の心の移りようが微に入り細を穿つように描かれる。
バーへ行くときと帰るときの男の心象風景の対比が面白い。
非常に高精細なキレッキレの写真のよう。
そういえば、『クリーム』という短編でも主人公は不条理な目にあっていたなぁ。


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