『罪の轍』奥田英朗
奥田英朗『罪の轍』
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奥田英朗の『罪の轍(わだち)』です。
多くの警察モノのミステリーを読みましたが、これはまぎれもない傑作。
おススメです。
これまでも著者の小説は、ずいぶん読んでいますが、読むたびに「上手いなぁ」と思います。
ちなみに、本書のモチーフとなっているのは1963年に東京都台東区で実際に起こった「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐殺人事件」。
この事件は日本で初めて報道協定が結ばれたことで知られ、報道協定が解除されるとテレビ等で犯人からの電話の音声を公開し情報提供を求めるなどメディアを利用した捜査もおこなわれました。
その、結果、事件をテーマにした「かえしておくれ今すぐに(返しておくれ今すぐに)」といった楽曲が様々な歌手によって歌われるなどし、全国の人々の関心を集めた初めての事件ともなりました。

物語は1963年の夏、北海道の礼文島に住む何をするにも不器用な青年、宇野寛治が島で空き巣を働くところから始まる。
味方と思われた同僚、赤井の企みを運のよさもあって免れ宇野は無一文で東京に向かう。
この事件が起こった一方、警視庁捜査一課には東京台東区で強盗殺人事件が発生したとの報がもたらされる。
主人公の捜査一課の刑事、落合昌夫は捜査の途中、子どもたちから「莫迦」と呼ばれる青年の話を聞く。
捜査一課が強盗殺人事件を追っているところに、同じ捜査区域の浅草署の管轄内で誘拐事件が発生する。
懸命な落合たちの捜査の結果、強盗殺人事件と誘拐事件の関連が判明。
宇野は逮捕はされるが、事件の解明は一筋縄にはいかなかった。

本作では犯人と刑事たち、また、事件にかかわるヤクザや山谷で簡易宿泊所を経営する若い女性などのドラマが重層的に描かれます。
登場する人物たちのキャラクターもいい。
読みやすく過不足のない文章。
構成のバランスもよく、読みごたえがあります。
東京オリンピック前夜の東京の様子や当時の日本の時代の空気が色濃く描かれていて、1960年前後の警察モノの日本映画『天国と地獄』や『飢餓海峡』、『点と線』あたりの映像がいやでも思い浮びます。
ところで、タイトルの『罪の轍』ですが、ボブ・ディランの名盤『血の轍』にインスパイアされたのではないかと思ったりするわけです。
著者は洋楽好きのようですし…。


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