『鹿の王』上橋菜穂子
上橋菜穂子『鹿の王』
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上橋菜穂子の『鹿の王』である。
読みごたえもあるし、面白かった。

読んで、間違いのない作家たちがいる。
いってみれば「読めば、必ず面白い」ことが分かっている作家たちである。
自分にとっては上橋菜穂子は間違いなく「読めば、必ず面白い」作家たちの一人である。
彼女の作品はややもすると児童向けの作品だと思われ、敬遠してしまう大人がいるが、それはあまりにも、もったいない。
そんじょそこらのへなちょこ人文科学の本より、よほど哲学的で啓蒙的だ。

物語のあらすじはこんな具合である。
主人公のヴァンは、敵方の東乎瑠(ツオル)帝国に捕らえられ岩塩鉱で奴隷としての生活を強いられていた。
ある夜、岩塩鉱に山犬のような獣が侵入し、次々と人を襲う事件が起こる。
その夜から獣に噛まれた人々は謎の病にかかり敵味方関係なく次々と亡くなり全滅するという事態が発生。
そうした状況で主人公のヴァンと赤ん坊のユナはの二人はなぜか、生き延びることができた。
岩塩鉱で発生した病気を黒狼熱(ミツツアル)病ではないかと疑う、東乎瑠(ツオル)帝国に従属したアカファ王に仕える若き俊英の医術士ホッサル。
謎の病に効く薬を製造しようとするためにもヴァンとユナを捕えようとするホッサル達。
一方で、東乎瑠(ツオル)帝国に従属した国や民族たちのパワーバランスを揺るがす火馬の民たちの陰謀が進行しようとしていた。
そして、それは蔓延しようとしている謎の病にも関わるものだった。

医学的には西洋や東洋の近代ぐらいの時代を想定しているのだろう。
現代の西洋医学にも通じる合理的なホッサル達の医学。
そして東洋医学的でありかつ仏教や道教の思想とも似た東乎瑠(ツオル)帝国の医術士、またアニミズム的な神を持つ火馬の民たちの病気に対する考え方。
各々の民族の医術に対する思想の違いは、現代の医学を考えた時にも共通するものがあるし示唆に富んでいる。
また、本作で描かれている感染症やそれに用いる薬に関する話題は、医学的に正しいこと(おそらく?)をわかりやすく伝えている。

全体に物語の世界観が堅牢で破綻がなく緻密で重厚。
このあたり宮崎駿の『風の谷のナウシカ』にも共通するものを感じる。
また、登場する様々な国家や民族の微妙なパワーバランスや人間模様がアメリカの有名なファンタジーのテレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』あたりとも、ちょっと似ているかなと思った。


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