『インドクリスタル』篠田節子
篠田節子『インドクリスタル』
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篠田節子の『インドクリスタル』である。
第10回中央公論文芸賞受賞。
上下二段組みで500ページを越える大作。

著者は様々なジャンルのエンターテイメント作品を手がけているが、一般にはホラー、SF、推理小説の作家として知られているのだと思う。
もう何年も昔のことだが著者の『夏の災厄』というパニック小説は面白かった。
以来、彼女の小説は度々、読んでいる。
この作品はインドという舞台でホラー的、伝奇的な部分が、どう展開するのだろうという点に期待して読み始める。

主人公の藤岡は山梨県の人工水晶を製造する会社の社長。
彼は超高品質の人工水晶を製造するための元となる高純度の水晶を求めインドの奥地へ赴く。
そして、宿泊する屋敷で使用人として働く不思議な少女ロサと出会う。
彼女は人間離れした能力を持ち、幼い頃は生き神として民衆に崇められいたという過去を持つ。

藤岡は高純度の水晶の採掘作業を行うインドの民衆との間でフェアな取引を行いたいとの思いで事業を展開するが事は順調に運ばない。
日本や西洋が持つあたりまえの価値観とインド住む人々がもつ価値観との摩擦。
ロサを助けたいという思いから彼女の身柄をNPOに託す藤岡だが、そのおもいは空回りするのみ…。

労作だとは思うが「もう一つ、とらえどころのない小説だなあ」というのが正直な感想だ。
伝奇小説としては、そのおどろおどろしい部分が完結していないし、経済小説として読むには伝奇的な部分が邪魔をしている。
インドの土着的な風俗や文化を描くといった部分でも、もう一つ物足りない。
全体に抑揚が足りないとでもいうのだろうか…。
結末にエンターテイメント的なオチがほしい。

インドにはまる人はアフリカにハマらない。
逆にアフリカにハマる人はインドにハマらないという話を昔、読んだか聞いたかしたことがある。
インドの猥雑さ、カオスさを愛する人はアフリカのスコーンと抜けた青空と果てしないサバンナという自然が精神性を凌駕するような場所には感動を覚えないということのようだ。
というわけでインドの混沌とした精神世界を垣間みるにはオススメ。

ところで『インドクリスタル』というタイトルを目にしたとき、既視感のようにどこかで聞いたことがあるような気がするなとおもった。
なぜだろうと考えるとジンという蒸留酒の銘柄に「ボンベイサファイア」というのがあることにおもい当った。
ブルーの美しいボトルに入ったイギリスのジンである。

余談だが、20年ほども前に広告代理店で仕事をしていた頃、人工水晶を製造する会社に出入りしたことがある。
といっても、打ち合わせは常に工場の食堂で、工場の内部を見学したことはついになかった。
玄関を入ったホールには人工水晶を製造する過程を説明したパネルや、ラスカといわれる人工水晶の原料となる水晶がディスプレイしてあった。
人工水晶は種になる小さな水晶片を、ラスカといわれる水晶高温・高圧の育成炉
当初は人工水晶は水晶を原料として製造されるのか? と妙に腑に落ちなかったものである。

ちなみにインドを舞台にした小説ならグレゴリー・デイヴィッド ロバーツの『シャンタラム』はオススメ。
というか、超オススメ!

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