『騎士団長殺し』村上春樹
村上春樹『騎士団長殺し』
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村上春樹の『騎士団長殺し』である。
作品は「第1部 顕れるイデア編」と「第2部 遷ろうメタファー編」の2巻で構成される。

読みごたえはあった。
途中で、飽きるということもなかった。
というか「なかなか腰の据わった小説だなぁ」と思った。
まぁ、面白く読めた。
最近の村上作品の中では、好きなタイプの作品ではある。
でも、もろ手を挙げて傑作だとは、ちと言い難い。
どうも、物語の膨んだ先にある着地点が、なんか、これでいいのかなという気がしてならないのだ。
物語が、ここまで意味不明に膨らむと、どう着地させてよいのかは、自分にもよくわからないのだが……。

Contents

『騎士団長殺し』の文体はワンアンドオンリー

文体は明らかに、もう、ワンアンドオンリーの世界である。
暗喩(メタファー)が多いといわれる、これまでの村上作品に比しても暗喩だらけの作品である。
いや、本当に多い!
第2部は「遷ろうメタファー編」というタイトルだが、第1部からメタファーだらけである。
その分、全体に冗長といえないこともない。
ただ、使われている暗喩は、文章にこだわる小説家らしい秀逸なフレーズが多い。
このあたり、しっかりと練られているというか推敲されていると感心する。

そうした点では、スーッと頭に入るような小説とは、ちょっと違う。
ボーッとは読めない作品であり、ちゃんと読むには一定の緊張を強いられる作品である。
でも、それが楽しいし、達成感や充実感にも似た気分にさせてくれる。
ちなみに、彼の一人称の小説でよく使われていた「僕」は「私」に変わった。

構成は、いつもの村上作品

物語の構成は、これまでの村上作品を踏襲するような枠組みであり、それを踏み外すようなものではない。
いつものように、正体不明の擬人化されたメタフィジカルな「サムシング」が登場する。
そして物語は、よくわからないファンタジーのようなシュールな世界へと踏み込んでいく。
なんとなく、昔の村上作品の枠組みに先祖返りしたような雰囲気もある。
退行したのか? 進化したのか?
登場人物が多いという訳でもない。
(少なくはないが)
物語の大きな流れは、意外とシンプルなのだが、これに突き刺さってくる「事象」が混沌へ導いていく。
という訳で、俯瞰で全体を眺めると、なかなか複雑怪奇で込み入ってるのである。

…で、この小説の本質、核心は、いったい、なんなのか? とは村上作品の長編を読むと時々思うのであるが、やっぱり、この作品もそうしたおもいを引きずることになった。

だいたいのあらすじは、こんな具合。

主人公は肖像画を専門とする画家で突然、妻に別れを告げられ、傷心のあまり東北や北海道を放浪する。
といって、いつまでも放浪できないので知人の持つ神奈川の小田原にある家を借りることになる。
そして、小田原にある美術教室の教師となることになる。
そこで出会う、得体のしれない資産家の隣人や美術教室の生徒たち。
一方、知人から借りた家からは、元の住人だった日本画の大家の傑作が見つかる。
借りた家のそばでは不思議な“穴”が見つかる。
資産家の隣人から、彼女の肖像画を依頼された美術教室に通う少女は突然、行方不明となる。
主人公は少女を見つけようと奔走。
この少女と、隣人と“穴”と日本画の傑作と別れた妻がリンクする…。

タイトルにも、何か意味合いが?

さて、このタイトルであるが第1部の「顕れるイデア編」の「顕(あらわ)れる」は、なぜ「現れる」でないのだろうか?
と思い、その昔、仕事の義理で買わされた分厚い大辞泉を手繰ってみると「顕れる」には「よくないことが公になる。発覚する。」とある。
ということはと思い、次に「遷(うつ)ろう」の「遷」を調べてみると「物事が時間とともに移り変わる」といった意味のほかに「魂が体から抜け出る。死ぬ。」という意味もあるらしい。

読み終えての雑感

「第1部 顕れるイデア編」のプロローグでは顔のない人物が、いきなり「自分の肖像画を描いてくれ」と登場する。
このシーンではルネ・マグリットの絵画にあるような、顔のない紳士の肖像を連想。
果たして、この顔のない人物は、この物語で重要な役割を担うのだろうか? と思ったが、後半でサラッと登場するだけ。
また、「遷ろうメタファー編」で、主人公が通り抜ける「メタファー通路」の箇所は、やや冗長な感じ。
このあたり、なんとなく小説としてのバランスの悪さを感じる。

舞台の大部分は神奈川県の小田原市の山中で展開する。
小田原市は二十代の頃に、近隣の街に住んだことがあるので、あのあたりの雰囲気はなんとなくわかる。
海があって山があって、太陽の光の眩しい穏やかな土地だ。
歳をとったら、あの辺りに住みたいなあとおもう。


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