『光る牙』吉村龍一
吉村龍一『光る牙』
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『羆嵐』が思い浮かぶ

吉村龍一の『光る牙』である。
ヒグマの登場する小説と言えば、いやでも吉村昭の『羆嵐』が思い浮かぶ。
大正4年12月に北海道の苫前(とままえ)でヒグマが村を襲い7名が死亡し3名が重傷を負ったという「三毛別羆事件」を克明に描いた、ハードな物語である。
大学生の頃に読んで、ヒグマの恐ろしさに戦慄した記憶がある。

動物小説の秀作

一方、本作の舞台は現代だし『羆嵐』のような大正時代に実際にあった事件を描いた硬質な物語ではない。
『光る牙』は北海道の日高山脈を舞台に展開する。
体重500キロを超すような巨大なヒグマを駆除する二人の森林保護官の物語。
展開はスピーディーだし、さくさく読める。
200ページ少々なので半日、かからずに読むことができた。
ただ、面白いには違いないが、少々、主人公の心象などを書き込みすぎているような気がする。
確かにわかりやすいのだけれど、読者に行間を読むような想像力をもっと喚起させるような描き方のほうが、より印象に残ったのではないだろうか?
物語の展開も、もっとじっくりと進めていったほうがよいと思った。
終盤で主人公の上司が山中で消息不明になってからエンディングを迎えるまでの展開は、ちょっとチカラ業過ぎるかな?

作者は山形県在住で、池上冬樹氏が世話役となり多くの小説家を輩出している「小説家(ライター)になろう講座」の出身者。
元自衛隊という経験を持つらしく銃器の取り扱いなどディテールがやけに詳しく描かれている。
ヒグマの習性についても、改めて知ることが多く勉強になった。

クマについての二題

余談だが、知り合いで林業に従事している人がいる。
酒の席で聴いた話だが、みんなで一服しようと大きな木の下で涼んでいると、すぐ近くから「ウォォォ」と獣の鳴き声が聞こえる。
辺りを見渡しても、それらしき姿は見えない。
ふと、木の上を見上げると熊が下りるに降りられずにいたという。
そのあとは推して知るべし。
彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げたという。
ついでにもう一つ。
ヒグマの食害事故で思い出すのは福岡大学ワンダーフォーゲル部の事件だ。
この事件のあらまし(興味のある人はネットで調べてください)とか読むとヒグマが、いかに危険でパラノイア的な動物かがよくわかる。
実際にあった事件だけに、へたなホラーなんかよりよほど恐ろしい。

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