『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー
アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
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アンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』である。
翻訳は小野田和子。
以前からAMAZON等で評判になっているのを知り、いつか読んでみたいと思っていた。
しかし、仕事のあるウィークディはその気になれず、お盆休み前に地元の図書館にいったところ運よく本作が置いてあり、この休み中に読み終えることができた。

正直いえば、上巻の中頃ぐらいまでは読み終えることができるか心もとない感じもあったが上巻後半に入ってからはページを手繰る手が止まらなくなった。
下巻に入ってからは、もう一気読みである。

著者のアンディ・ウィアーは、処女作の『火星の人』をオンライン小説として発表。
作品は評判となり紙の本が出版されるやベストセラーになる。
その後、ハリウッドでマット・デイモン主演の『オデッセイ』というタイトルで映画化され映画もヒットした。
『火星の人』は事故で一人、火星に取り残された宇宙飛行士が“知恵と勇気とユーモア”で過酷な環境を、何とか助けが来るまで生き延びるというサバイバル・ハードSFといった内容だった。

本作はスケールの大きさこそ異なるが、一人称の語り口や物語のテイストは『火星の人』とほとんど一緒だ。
主人公は“知恵と勇気とユーモア”に“友情”をプラスして難局を乗り越えていく。
『火星の人』と同様、本作も主人公の一生懸命さがいいんだな。

あらすじといえば次のような感じである。
主人公のライランド・グレースは中学の科学教師をやっている。
グレースは過去に書いた分子生物学に関する論文が原因でペトロヴァ問題に巻き込まれていく。
ペトロヴァ問題とは、日本の太陽観測衛星<アマテラス>で、太陽の光度がだんだん落ちているという状態が観測されたことに端を発する。
このまま太陽の光度が暗くなると、30年後、地球の気温は平均して10から15度低くなると解析される。
つまり、地球に氷河期が訪れるわけである。

そこで、各国の政府はこのハルマゲドン的な問題を回避するために国家の枠組みを超えたプロジェクトを開始する。
まず無人観測衛星を飛ばし太陽や金星を調査すると、驚くことに太陽光(エネルギー)を食べる! 約10ミクロンの黒くて丸い微生物(アストロファージ)が突如として太陽付近に大量に現れたことが確認される。
そして、この微生物をしらべると、非常にユニークな特性を持つことが解明される。
太陽エネルギーを効率よく体内に取り込み、光として放出することが可能なのである。
それは、恒星間の宇宙航行を可能とする光子ロケットの燃料として理想的なものだった。

光子ロケットとは光を噴出する反動を利用して推進するロケットのこと。
例えば、懐中電灯はものすごくわずかだが、推力を持っている。
ロケットが到達できる速度は噴出させるガスなどのエネルギーの速度に比例する。
ということは、光を照射して進むロケットは光速に限りなく近づくことが可能になる。
つまり、アストロファージが放つエネルギーを推進力に使えば光子ロケットが完成する。

一方、学者たちは地球に近い他の恒星系でも、太陽と同じようにアストロファージの侵食による恒星の光度がだんだん落ちているという現象を確認していた。
しかし、地球から11.9光年離れたクジラ座のタウ・セチ星系は、周辺の恒星系がアストロファージに侵食されているのに、この星系は侵食されていないという特異な現象を発見する。

なぜ、タウ・セチ星系はアストロファージに侵食されていないのか?
この謎を解明すれば地球の危機を救うことが可能かもしれない。
人類はタウ・セチ星系へ主人公を含む3名の宇宙飛行士を派遣するプロジェクト=「ヘイル・メアリー・プロジェクト」を発動するのだった。

ここまでが上巻の中盤ぐらいまでのストーリーである。
下巻は一転ハードSFからスペースオペラの様相を見せてくる。

まぁ、とにかく情報量の多い小説だ。
一歩間違うと荒唐無稽ともいえる物語に信憑性を与えるアイディアと科学的な考証。
このあたり、感心しきりである。

タイトルで使用されている「ヘイル・メアリー(Hail Mary)」とはラテン語の「アヴェ・マリア(Ave Maria)」のことで、アメリカンフットボールで使われる「ヘイル・メアリー・パス」といえば、試合終盤に、負けているチームが、一か八かの神頼みを込めて投げるパスのことをいうのだそう。

本作を読めば、このタイトルも納得だ。

最後のシーンを読んで、ふと思ったのは光速に近い速度で地球に帰れるなら、さほど、歳も取らないのにと…。

あとがきを読むと、すでにハリウッドで映画化が進んでいるという。
主演はライアン・ゴズリングだとか。
おいおい、また、ライアン・ゴズリングかよ…。

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