西加奈子の『サラバ!』である。
2015年本屋大賞第2位。そして今年、1月の第152回直木賞の受賞作。
そんな訳で、ずっと読みたかったのだがいつも行く町の図書館でラッキーにも発見。
上下2巻であわせて700ページを越える、結構なヴォリューム。
で、読んだ結果、直木賞が対象とするエンターテイメントでなくって芥川賞のような純文学でないの? と思った。
一見、主人公の少年が青年から中年へと成長する過程を描いたエンターテイメントっぽい青春小説(どちらかといえば)ではあるのだが、単純に青春小説とは言いがたい巨大なカオスがある。
登場するのは中東に駐在経験のある夫婦とその子供たち(姉弟)の四人家族と、その周辺の風変わりな人々。
奇行を繰り返す姉、きれいな大阪のおばちゃんといった風な母とどこまでも、よい人の父。
物語は、そうした個性的な家族のはざ間で、自分を消すことを学んだ弟の視点で語られる。
エジプトに住んでいた少年時代から、高校生、大学生、そしてフリーのライターでなんとか生計を立てている30代半ばまでの大人になれない主人公の歩(あゆむ)。
彼のその時々、時代時代が丹念に描かれる。
物語の終盤、歩はまたエジプトの地を踏み彼の輝いた時代を回想しエジプト人の友人と再会する。
彼は解き放たれるのか…。
フィクションではあるのだが作者が中東に住んだことのある帰国子女であったり人物の内面を彫りこみすぎてるためか、妙なリアリティと赤裸々感がある。
笑える箇所も多いし文章も読みやすいが、その赤裸々感に手間取って物語りに入り込むのに少々、時間がかかった。
物語にはジョン・アーヴィングやニーナ・シモンがキーワードのごとく登場したが、この小説は、型破りな家族が登場したり大人になれない青年が主人公だったり、ストーリーやドラマがあるのかないのか、わからないようなジョン・アーヴィングの描く小説と似てるかもしれない。
AMAZONのレビューを見るとだいぶ評価が分かれているようだが、この小説を評価するためにはそれなりに小説を読み込んでいる人でないと、この面白さやよさは、わからないかもしれない。
だれにでも、オススメできる小説ではないが作中に登場するジョン・アーヴィングやニーナ・シモンと聞いて誰のことかピンと来るような人にはオススメできる小説だと思う。