『若冲』澤田瞳子
澤田瞳子『若冲』
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澤田瞳子の『若冲』である。

伊藤若冲の展覧会には何度か足を運んだ。

江戸時代中期の画家であるにもかかわらず現代のデザインにも通じるような構図の大胆さに驚かされる。
画にチカラとキレがある。
そして、精細、緻密。
時代があるにもかかわらず、絵の具の質がよいため発色が鮮やか。
中にはオリジナリティあふれる技法でアピールする大作もある。
ただキレイだという絵とは、一味違う。
大胆さと緻密さとオリジナリティで現代のアーティストやクリエーターにも影響を与えている人気の絵師である。

そうした奇想の画家といわれる伊藤若冲を主人公にした小説である。

物語は数編のエピソードで構成され若冲本人と彼の妹、お志乃の視点で語られていく。

そもそも若冲は京都、錦小路の裕福な青物問屋の長男に生まれた。
長男であったにもかかわらず、店は弟達に任せて画をかく毎日で40歳にして隠居。
それ以降は、絵に専念する毎日を送っていたという。
そうした意味で絵を描くことだけが生きがいで世事にはまったく関心を示さない人生だったように思われがちだ。

しかし、最近では隠居後に商売敵の五条通の青物問屋が錦市場を閉鎖に追い込もうと横槍を入れられると、奉行所と折衝を行ったり町衆と協議を重ねたりと錦市場が閉鎖されないように活躍したことも明らかになっている。
また、若冲は自死した妻に対する、悔恨の思い? から逃れられず画を描くことに没頭したように作中では描かれているが、史実では生涯、妻を娶らなかったとも言われてい。
谷文晁、池大雅、与謝蕪村、丸山応挙といった当時のスター絵師が登場したり、彼の代表作であり偽作論争のある「鳥獣花木図屏風」が描かれた経緯などもエピソードとして描かれている。

このあたり、どこまでが史実でどこからがフィクションなのか、わからないが史実としての事件や逸話もしっかりと盛り込まれていてサービス精神のある作家だなと感心。
著者の小説を読むのは初めてだが、日本語も豊かでベテランの書く小説のような風格を感じる。
と思って、ウィキペディアで著者のプロフィールを見たら、母は作家の澤田ふじ子とある。
妙に納得してしまった。

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