『永遠の旅行者』橘玲
橘玲『永遠の旅行者』を読む
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橘玲の『永遠の旅行者』である。
初めて読む作家であり、あまり期待せずに読み始めたが思わぬ拾い物をしたという感がある。
ストーリーは緻密で複雑。
計算された隙のない内容で、とてもよくできている。
金融や税金の知識を駆使した金融情報小説といっていいと思うが、一言で金融情報小説とくくれない部分も多く人間ドラマとしてもよく描けている。

物語はハワイで生活を送る元弁護士の主人公に、余命いくばくもない日本の老人から孫にあたる少女に相続税を1円も払わないで遺産を相続させたいという依頼から始まる。
その少女は統合失調症で母親を殺されたという過去を持つ。
父親との関係も複雑。
老人の遺産をめぐって、蠢く人物たちや少女の家族と対峙する主人公…。

税金に関する法律や金融テクノロジーの部分については半分も理解できなかったが、プロットがよくできているので面白く読むことができた。
また、ハワイやニューヨークの生活が仔細に描かれており、ちょっとした旅行気分に浸ることもできる。

ちなみに永遠の旅行者とはPerpetual Traveler(PT)といい、国家を転々としどの国の居住者ともみなされない期間の間だけ滞在し、税金を国家へ合法的に払わない、もしくは納税する税金を最小にするライフスタイルのこと。
アメリカの国際投資家W.G.ヒルが提唱した理論でPTは1.国籍(市民権)のある国、2.住所のある国、3.ビジネスを行う国、4.資産運用を行う国、5.余暇を過ごす国、6.寄付を行う国を使い分けるのことが多いという。

橘玲という人の小説は初めて読むが、こうした傑作を描くことができる日本の小説家の層の厚さを感じる。


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