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山田宗樹の『聖者は海に還る』です。
ミステリー小説だと思って読み始めましたが、これは恋愛小説ですね。
悲しい物語ですが、最後の1行に救われます。
このあたり、ややあざとさを感じないわけでもありませんが…。

とある中高一貫の進学校に赴任してきた臨床心理士。
彼にカウンセリングを受けるとクライアントたちの症状は劇的に改善するのだったが、その彼自身が心に闇を抱えていた…。
そして彼を見守る養護教諭。
自殺者の増加やうつ病が特別なものではなくなった時代において、メンタルヘルスクリニックや臨床心理療法を行う施設が増えていくのは当然のことだと思う。
そうした世の中の流れに一石を投じる作品ではないでしょうか?
こうしたものを読むと臨床心理療法の功罪というのも考えないといけないと思うのでした。

内容的には臨床心理士が生徒や先生方のカウンセリングを行っている場面(カウンセラーが、ただ、一方的に話を聞いているだけで成績が上がったり、劇的に症状が改善したりというのはありえるのだろうか?)など、もう少し突っ込んで描いてほしいと思う部分もありましたが、作者の筆力があるため、最後まで面白く読み通すことができました。

この本の解説の中で後藤聡子(博士-教育学-)は

人間関係を語る際には、わかりあうことの大切さばかりが強調されるのが常である。確かに関係性を結んでゆく上で<わかる>ことが大切であることはゆうまでもない。しかし、それがふとした瞬間に、安易な同情や支配欲へ反転しまう危険性を孕んでいることは、さまざまな登場人物の姿に明らかだ。相手を<わからない>存在として認識することの重要性が、ここに浮かび上がってくる。このような認識こそが、相手の主体性を尊重し、受容しようとする意識の土壌となってゆくはずなのだ。(一部抜粋)

と書いています。

このことは他人と関わって生きていくしかない私たちは肝に銘じておかなければならないことなのでしょう。

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