砂原浩太朗の『高瀬庄左衛門御留書(たかせしょうざえもんおとどめがき)』です。
読み始めから中盤まで行ったあたりで「これは、もう、完璧に藤沢周平の系譜を継ぐ時代小説」だなと。
頭に浮かんだのは『三屋清左衛門残日録』。
タイトルからして似ています。
おそらく、想像ですが作者は敢えて藤沢作品に寄せたのではないでしょうか。
読み始めは文章に自然な流れを感じなかったのですが後半に行くにつれ、こなれていき自然にすっと読めるようになっていきました。
癒されます。
いろいろ思うところもありますが、藤沢作品のような小説が、また、読めると思えば、これはこれでうれしいことではないでしょうか?
主人公の高瀬庄左衛門は神山藩で郷方回りの役職についていたが五十を過ぎて隠居し手慰みに絵を描きながら日々を送っている。
隠居して間もない、ある日、郷方回りへ出かけた息子が崖から落ちて亡くなったとの報に接する。
庄左衛門は再び郷方回りの役に就き役目にいそしむ一方、藩校の助教を助けたことをきっかけに大きな事件に巻き込まれていく。
と、書きましたがストーリーは、なかなか込み入っています。
本作には藤沢周平の作品を構成する、いろんな要素が盛り込まれています。
風景や自然など詩情を交えた、エピソードへの導入部。
つつましくまじめな主人公。
主人公と息子の嫁との淡い関係。
旧友との友情や確執。
家老といった重役からの密命。
目付の正嫡として生まれた兄と、側女の子として生まれた弟の微妙な関係。
そして、藩にうずまく黒い陰謀。
藤沢周平の二番煎じと突き放すのは簡単かもしれませんが、藤沢作品が好きなら、それは、もったいないことかもしれません。
個人的には敵対する相手側の描き込みが、もう少しあった方がよいように思いました。
村が強訴という手段にでるということは、よほどのことなので…。
本作を読み終えて、藤沢周平の時代小説家としての大きさを改めて感じました。
藤沢作品というのは、現役の時代小説家にとってひとつの到達点になっているのではないでしょうか?