だいぶ昔に読んだ作品だが、飯嶋和一の『黄金旅風』である。
図書館で借りて読んだ本を、改めて購入した本というのは、それほど多くないのだが本作は「この本はちゃんと買って、持っていた方がいいな」と思い、改めて本屋さんで購入した。
そのぐらい、本作を読み終えたときは「いい小説だな」と思った。
以来、信者とまではいかないが飯島和一のファンである。
飯島和一は歴史の片隅に登場する実在の人物を取り上げて小説に仕立てるのが上手い。
取り上げられるのは、決して誰もが知っているという人物ではないが、男気のある人物が多いような気がする。
本作でも末次平左衛門(二代目)と平尾才介という、男っぷりのいい二人が登場する。
末次平左衛門は実在の人物だが平尾才介は、ネットでググっても出てこないので実在したのかわからない。
ご存知の方、いらっしゃたならお教えください。
さて、物語の舞台は徳川家光が将軍になって間もない頃の長崎。
長崎では家康時代に朱印船の制度ができ、東南アジアや中国の都市と活発な貿易が行われていた。
日本史で習う朱印船貿易というやつである。
出島ができる直前の頃の長崎は、海外貿易のため様々な国の人など多種多様な人々が暮らし隆盛を誇っていた。
その、長崎の町を支えていたのが代官の末次平左衛門と内町火消組頭の平尾才介である。
一方、豊後国の藩主で長崎奉行に任命された竹中重義は朱印船貿易を私物化し呂宋(ルソン・現フィリピン)島への出兵を企てていた。
竹中重義の密謀を阻止しようと奔走する平左衛門。
その結果は…。
本作を読むと、キリシタンがいかに弾圧されたということも、かなりのページを割いて描かれており、当時の長崎状況やそこで暮らす人々の雰囲気がよく分かる。
よく「講釈師見て来たような嘘を言う」というが小説家も同じで、まるで、著者がその現場にいたかのようにシーン、シーンが細やかに描かれている。
ただ、先ほども書いたが、準主人公のような人物を早々に殺してしまったりなど、四章からなるこの物語は、各章で主人公が微妙に変わる感じがあるが、小説の構成という観点でみた場合、そのバランスがあまりよくない。
こうしたことは、著者の他の作品でも感じることである。
でも、そうしたことは些末なことで、全体に夢とロマンを感じさせる男らしい大きな小説だと思う。
ミルキィ・イソベの手になる装丁も美しい。
オススメです。