万城目学『悟浄出立』
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万城目学の『悟浄出立』である。

久しぶりに読む万城目学の小説。
『鴨川ホルモー』や『偉大なる、しゅららぼん』といった長編の摩訶不思議な面白青春小説は読んだことはあるが、そうした系統でない、しかも短編の小説は初めて読んだ。
なんか、作者の底力を見せられた感じ。

当初は短編集だとは思わず最初の「悟浄出立」の一篇を読み終え、すっかり沙悟浄や猪八戒、悟空らが登場する小説なんだなとおもって次の篇の「趙雲西航」を読み始めた。
すると、そのタイトル通り張飛や趙雲といった三国志の人物たちが登場。
そうか、悟空や三蔵法師を三国志に紛れ込ませたのか。
万城目学らしく「トリッキーなことするなぁ」とおもいながら読み進めた。
しかし、そうではなかった。
文章のテイストは同じなのだが、一篇一篇が読みきりで関連のない作品集だった。

いずれの作品も中国の故事や伝説に材を得たものだが、共通するのは沙悟浄や趙雲や虞姫といった本来、物語のわき役で登場する人物が主人公となり、彼らの目から見たエピソードが描かれる。
そうした点では『西遊記』や『三国志』、『四面楚歌』など、ある程度、作品のベースになったエピソードについての知識があるほうが、本作のよさに迫ることができるだろう。

読んで感じたのは、まず、文章がていねいなで端正。
内容も、ちゃんとしている。
芥川や太宰など、昭和の文豪の短編を読んでいるかのような印象を持った。

個人的には史記を編纂した司馬遷の娘が主人公の『父司馬遷』や、項羽の寵姫だった虞姫が主人公の『虞姫寂静』(余談だが広辞苑に「静寂」はあるが「寂静」は載っていなかった)といった作品が好き。

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