垣根涼介『月は怒らない』
垣根涼介『月は怒らない』
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垣根涼介の『月は怒らない』である。
著者の作品は何冊か読んでいるが、いずれもエネルギッシュでパワフルなミステリーというイメージがある。
しかし、本作はそうした男っぽいイメージとは一線を画する。
本書の紹介に垣根ワールドの新境地といった惹句を見つけたが、なるほどなと思う。

登場するのは三谷恭子という吉祥寺の市役所で戸籍係をしている二十五歳の女。
恭子は、梶原彰、小倉弘樹、そして和田という交番勤務の警察官の男と付き合っている。
もっとも、和田とは肉体関係のない話し相手になるというだけの不思議な付き合い方だが。
梶原は暴力団と関係のある反社会的な仕事を請け負っている。
小倉は少林寺拳法の使い手という大学生。
そして、井之頭公園で恭子が会うという老人と老人と恭子の会話を伺うホームレスの男がピンポイントで登場する。

三人の男は、いずれも恭子に一目ぼれし彼女に付き合ってほしいといいよる。
それに対し、拒むことをしない恭子。
そして、彼女は、ほかの男と付き合っていることを積極的には隠そうとしない。
恭子をめぐる、男三人の嫉妬や不安、ほかの男に対する優越感、恭子に対する心配や憂い…。
複雑な感情が三人の男の中で交錯する。
そうした状況の中で超然としている恭子。

恭子は井之頭公園で時折、会う不思議な老人に、そうした関係について相談を持ち掛ける。
道教の老子のような、老人は答える。

…ようは、その当人にとって、生き方、身の処し方が納得のいくものかどうかでしょう。その上で、その規範がもしも世間から受け入れられないのであれば、そのときは本人がそれなりの制裁や非難を受ける。あえて言えば、自分の考え方は間違っているかもしれない、それでもそのときは、自分の身を持って贖えばいいという覚悟です。その、精神性があるか。それとも、ないか。…

昨今、世の中をにぎわせている不倫問題の答えも、このあたりにありそうだ。

物語は三谷恭子の境遇が語られないので最後までミステリアスな感じが付きまとう。
おそらく、恋愛小説といっていいのだと思うが、本作は単純に恋愛小説とはいえないものがある。
ちょっと不思議な小説だ。

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