『舟を編む』三浦しをん
三浦しをん『舟を編む』
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三浦しをんの『舟を編む』です。
2012年の第9回「本屋大賞」受賞作。
相変わらずうまいなぁと感心する。
以前、『風が強く吹いている』という大学生の箱根駅伝をテーマにした作品を読んだ時も思ったことだが心の機微というか、泣かせどころを知っている。
この作者、普段光の当たらないような職業や人々にスポットを当てて物語を作るのが得意なようだ。

物語の筋立てはシンプルだ。
大手総合出版社の辞書編集部に所属する真面目な編集者が大渡海という広辞苑や大辞林のような中型国語辞書を編集し長いの歳月をかけて、やっと発行にこぎつけるという物語。
辞書の編纂、編集という普段、気にも留めたことがないことが軽妙に描かれている。
作者は、しっかりと取材したのだろうが、辞書に載せる言葉の探し方や、意味の吟味、校正の苦労などは興味深く読んだ。
CLASSYという女性誌に連載されていたものらしく、なかには色恋のエピソードなどもある。
十数年という時間の流れがあるので、途中、端折っている期間があるが編集部の人の出入りや、辞書の監修に当たった国語学者の死といったことも描かれる。
新しい辞書を出版するというのは、ある意味、人生をかけた一世一代の仕事なのだなと感じ入る。

ちなみに個人的なことだが、自宅に大辞泉という大ぶりの小学館発行の辞書が家の本棚にある。
奥付をみると1995年の発行なので、購入してからすでに20年近くなろうとしている。
帯には発刊記念特別定価7,000円とある。
本を買うのは嫌いじゃないが、辞書に7,000円を出すというのは、なかなか勇気がいる。
当時、仕事で担当していた県内大手の書店の課長から直々に「買ってよ」と頼まれ、なかば、バーター取引のような感じで購入した辞書だ。

正直言えば、今では、ほとんど使っていない。
でも、この小説を読んで「そうだよなぁ、使わないとあかんなぁ」と思った。
そんな、訳で本棚から取り出し、函 からだし、いつでも開けるように机の上においている。
少なくとも、この小説には読んだ人間に、こうした行動をとらせるような感動と効用がある。

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