『光圀伝』冲方丁
冲方丁『光圀伝』
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冲方丁(うぶかた・とう)の『光圀伝』である。
文字通り、水戸光圀の物語であり、彼の青年期から亡くなるまでを描いた大河小説である。

思えば水戸光圀、イコール水戸黄門はテレビで何度となく見ているせいか分かったようなつもりになっていたが、そのじつ、彼がどういう人物だったのか、ほとんど知らないことに改めて気づかされた。
とはいえ、フィクションの部分も多いようで歴史小説とみるか、時代小説とみるか微妙なところではある。
読んでいる間、ずっと東野英治郎のかっかと笑う水戸黄門のイメージが頭から離れず、げんなりしたが、これはこれで水戸黄門という番組の偉大さ故だろう。
蛇足ながら水戸黄門の「黄門」とは中納言という朝廷の官職のことです。

時代は三代将軍の徳川家光から、五代将軍で犬公方と言われた徳川綱吉の頃。
青年の光圀は、いわゆる放蕩息子だった。
しかし、山鹿素行や林羅山の息子といった儒学者と知り合ったころから学究肌の文人のような殿様になっていく。
また儒学に傾倒した光圀の精神には、長兄が他家を継ぎ三男の自分が水戸徳川家を継ぐことになったことに対する大きなわだかまりがあった。
このことが彼の生き方、ひいては水戸徳川家の家督相続にも大きく影響していく。
ちなみに作者の前作『天地明察』の主人公、安井算哲(渋川春海)が登場したのにはビックリ。

光圀自身、エネルギッシュで物事に動じない魅力的な人物として描かれているが、自分の中では、どうも、何事かを成しえた人物という感じがしない。
確かに「大日本史」という歴史書の編纂をはじめたことは、実績として大きいのだろうが、これは彼の時代では完成をみることがなかった。
また水戸学の祖というと朱子学的なニュアンスがあり、自分の中では、どうしても偏狭でガチガチの原理主義者というイメージがあることもマイナスの印象につながるのかもしれない。

ただ、自分も含め水戸光圀をテレビドラマでしか知らない人たちにとっては光國の苦悩やドラマでは伝えられない一面を興味深く知ることができる一冊には違いない。

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