ドン・ウィンズロウ『犬の力』
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ドン・ウィンズロウの『犬の力』である。
翻訳は東江一紀。
熾烈、壮絶、そして圧倒的な暴力。
2010年の『このミステリーがすごい!』海外編の1位となった骨太のミステリー。
「ミステリーの賞もとってるし、一応、読んどいたほうがイイかな」という軽い気分で手に取ってみたが、読んで圧倒された。
ここまで圧倒された作品というのは久しぶりだ。
これまでの人生で読んだ翻訳物ミステリーでは五指に入るぐらい読み応えのある傑作。
骨太な大作なので歯ごたえもあるが文章もよく人物が魅力的なので一気読みできた。

この作品が『このミス』の1位になったというのは知っていたが、『犬の力』というミステリーかどうかさえよくわからない、意味不明なタイトルのため、正直、食指が動かなかった。
読んでしまえば、決して悪いタイトルではないと思うのだが、このタイトルでずいぶん損をしているのではないだろうか?
ちなみに「犬の力」とは旧約聖書の一節にある言葉で、邪悪の象徴といったような意味らしい。

物語はアメリカ麻薬取締局(DEA)の捜査官、麻薬カルテルの首領たち、高級コールガール、マフィアの構成員たちの目を通して1975年から2004年に至る30年の抗争を緻密に描いている。
主人公はメキシコの麻薬撲滅に取り憑かれたアメリカ麻薬取締局捜査官のアート・ケラー。
アートは、派遣されたメキシコのシナロア州にあるボクシングジムでアダン・バレーラという後に、麻薬カルテルの首領となる若者と知り合う。
ふたりは友人となるが、やがて友情は憎悪へと変わり、互いに相手を潰すまで終わりのない戦いを始める。
まったく、可愛さ余って憎さ百倍だね…。
裏切りは憎悪を呼び、血の争いを連鎖させる。
もはや、この舞台では法律や警察といった統治システムも機能しない。
もう、泥沼…。
「これでもかっ」と言う具合に血が流れる。
殺伐としているが最後には、少しだけ救われる。

全編を通じて麻薬の問題のみでなくイデオロギー、南北問題、政治、役人の腐敗、アメリカとの関係など、中南米が抱える問題が鮮やかにあぶりだされている。
アメリカでの需要がなくなれば、麻薬を売ろうという組織もなくなるだろうに…。
メキシコは敬虔なカトリックの多い土地柄である。
信仰が深いわりには簡単に人を殺す。
よくわからないが麻薬カルテルというのも歴史をさかのぼれば、メキシコ革命あたりに、その、萌芽があるのではないだろうか。

日本からは自動車関係の企業進出が多いメキシコだが企業のセキュリティ対策やリスク管理は、どんな感じなのだろうか?
麻薬がらみで日本人が深刻な事件に巻き込まれたと言うニュースはあまり聞かないが…。
駐在前に、この小説を読んだりすると辞令を受け取った日本の企業戦士もさすがに腰が引けるのではないだろうか。

ちなみに、本作を読んでメキシコにおける麻薬戦争のことをネットで調べてみた。
多くの警察関係者やマスコミ、行政の首長といった人々が反麻薬を掲げ、麻薬カルテルに殺されている。
しかも、顔を背けたくなるような残忍な殺され方である。
いやはや、そのあまりの凄惨さにショックを受けた。

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