車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』
車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』
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車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』である。

口当たりのよいものばかりが好まれる時代だが、本作は時代におもねることのない、なんともパンキッシュな小説だ。
我が家の朝食は、いつもNHKラジオの朝の番組が流れているのだが、その中でパーソナリティの高橋源一郎が昔、車谷長吉の人生相談が面白いと紹介していたのが気になり、どんな小説を書いているのだろうと思い手に取ってみた。

本作は直木賞受賞作だが、内容は完全に芥川賞である。
一般に直木賞は大衆文学、芥川賞は純文学とされている…。
が、しかし、最近はこのあたりの境界がものすごくあいまいになってきている。
純文学とも大衆文学ともいえないような作品が増えているのも事実ではある。

主人公の生島与一は大学を卒業しサラリーマンとして生活を送っていたが、そうした、まっとうな? 生活を捨て兵庫県の尼ヶ崎のアパートに流れ着く。
一般に尼ヶ崎という町は日雇い労務者や職にあぶれた者がたむろする治安のよくない場所として知られている。
生島は尼ヶ崎のアパートの一室でモツを串にさすという仕事を一日中行う。
いくら社会から逃れようとしても、生きていく限り人とのかかわりは生まれる。
串に刺したモツを卸す焼き鳥屋の女主人、そして猥雑なアパートの住人たち。
タイトルは『赤目四十瀧心中未遂』。
まぁ、つまりは三重県名張市赤目町を流れる滝川渓谷にある「赤目四十滝」での心中未遂が描かれているのだが、なぜ心中未遂するようなことになってしまったのか…?

車谷長吉という名前は知っていた。
しかし、ずっと「くるまたに ちょうきち」だと思っていた。
正確には「くるまたに ちょうきつ」というということを、本作を読み、ウィキペディアで調べて初めて知った。
作者は慶応大学文学部の独文科卒業だという。
永井荷風が編集長をやっていた三田文学を思えば、そういう流れといえなくもないが、およそ慶応ボーイのイメージからは対極にあるような作品である。

文体もパンキッシュ。
併し(「しかし」と読む)を多用する愛想のない剥き出しの文体。
かといって、決して読みにくいわけではない。

文庫の巻末にある川本三郎の解説がいい。
彼は隠棲の文学と書いていたが、確かにその通りかもしれない。
自分は漫画家のつげ義春を思い出してしまった。
車谷長吉のエッセーなども読んでみたい。

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