ジェフリー・ディーヴァーの『限界点』である。
翻訳は土屋晃。
原題は『EDGE(エッジ)』。
“EDGE”を辞書で引くと「〔競技などで〕小差[僅差]で勝つ、接戦をものにする」という意味も載っている。
そうした意味ではタイトル通りの内容である。
アメリカには証人保護プログラムという制度がある。
重大事件の関係者や犯罪の司法取引に応じた証言者を犯罪組織の報復や暗殺などから守るために設けられた。
本作は証人保護プログラムの対象者たちを殺害しようとする暗殺者、そして、暗殺を阻止しようとする警護官の死闘を描いた物語である。
主人公のコルティは連邦機関<戦略警護部>の警護官。
そして、敵の暗殺者はヘンリー・ラヴィングという、コルティの師匠ともいえる元上司を殺害した凄腕の暗殺者。
彼が守る警護対象者はジョアン・ケスラーという刑事の一家。
当初は、ケスラーが手掛けている事件の関係者から命を狙われていると思われていたが…。
コルティはラヴィングの緻密で冷徹な魔の手から、どうやってケスラー一家を守るのか?
そう、これはゲームなのだ…。
ジェフリー・ディーヴァーの他の作品同様、相変わらずの細やかで冷静な文章。
そして、終盤で起こる大どんでん返し。
これも、ディーヴァーらしい。
自分としてはめちゃくちゃ、よいミステリーという感じではなかった。
とはいえ、読んだ時間を無駄にしたという感じでもない。
まあまあの佳作といったところか。
ちなみに最後の章は文字通り、“蛇足”ではないだろうか。
昔観た『イレイサー』という映画ではアーノルド・シュワルツェネッガーが証人を暗殺者から守るエージェントとして出演していた。
映画では、証人の過去を消すために、ここまでやるのかというぐらい徹底していて驚いた記憶がある。
もちろん、エンターティナーなのでかなり大げさな演出になっていたとは思うが…。
日本でも今年から司法取引の制度が施行されたが、証人保護プログラムと同様の制度がないのはなぜなのだろう?
これでは、証言者が真実を話しても犯罪者や犯罪組織からの報復に怯えて毎日を送らなければならない。
というわけで日本の司法取引という制度は、まだまだ不完全だといえる。