『ピルグリム』テリー・ヘイズ
テリー・ヘイズ『ピルグリム』
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ゴールデンウィーク中、特に予定とかもないので活字に溺れてみようかと選んだのがテリー・ヘイズピルグリム』。
アマゾンでの評判を見ても星五つが並んでいる。
本の帯を見ても、期待できそうな惹句が並んでいる。
が、読んだ結果、自分としては、それほど称賛する気分にはイマイチなれない。
昔はスパイ小説と言えばロシア対アメリカ(西側対東側)といった構図が定番だったが、9.11以降はもっぱら、アルカイーダなどのイスラム原理主義過激派によるテロリズムとの戦いに軸足が移ってきた感がある。
この物語も、そうした流れにのるものだ。
作者は『マッドマックス2』、『ペイバック』、『バーティカルリミット』といったハリウッド映画の脚本を手がけ、本作は彼のデビュー作になる。

400ページほどの本が上中下の3巻というボリュームだけあって、登場人物の生い立ちや内面が、純文学のように丁寧に描かれている。
また、ディテールも緻密だしイスラムや中東など国際政治的な情報量も多い。
最初は、やや冗長だなと思ったが読む進みにつれ、次第にテンポもよくなってくる。
この小説にはアメリカの諜報員がテロを阻止するために奮闘するという大きな流れがある一方、ニューヨークで起きた殺人事件を解明していくというエピソードがサイドストーリーになっているが、このエピソードは必要だったのだろうか? というより、このエピソードをカットして2巻ぐらいにまとめたほうがよかったのではないだろうか。どうも、このエピソードには必然性が感じられない。
作中で印象的な言葉があった。
タイの僧侶が主人公に向かって言った「自由になりたければ、手をはなせばよい」というのは至言だろう。

ニューヨークの安ホテルの一室で起こった猟奇的な殺人事件から物語は始まる。が、これは本筋とはあまり関係がない。
アフガニスタンで発見された、殺菌用の生石灰にまみれた3人の死体。
サラセンと言われるテロリストと主人公の攻防がここから始まる。
この本筋自体は、かなりシンプル。
それまでは、各々の生い立ちが丁寧に描かれる。
最後にまた、サイドストーリーの結末を描いているが、本当にこの終わらせ方でいいの? といった印象。

ちなみ、本書に登場するサウジアラビアは、独裁国家と言ってもよいような絶対君主国家である。
女性の多くの権利が制限され、王族の批判は許されず、秘密警察が目を光らせている。
昔、『ホワイトハウス』というアメリカのテレビドラマでも、サウジアラビアを思わせる国家に対して女性報道官がえらく怒っていた。
自由と民主主義の警察官を標榜するアメリカは、そうしたサウジアラビアに最新鋭の武器を供与している。
このあたり、アメリカの矛盾そのものである。

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