窪美澄『晴天の迷いクジラ』
窪美澄『晴天の迷いクジラ』
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窪美澄の『晴天の迷いクジラ』である。
まぁ、いろいろと悩むことの多い時代である。
大人は大人なりに。
若者は若者なりに。
そして、こどもはこどもなりに…。
そうした悩み多き、現代という「今」の時代性を切り取った、あるいは象徴したような小説である。
この小説で語られたことが、すべてという訳ではないけれど。

物語は四篇で構成される。
最初からの三篇は各々異なる三人の主人公の視点で語られ最後の一篇で三人の物語が収れんされていく。
始めの主人公の由人は小さなデザイン会社で働く青年。
問題のある家庭に育ち、仕事は多忙を極め、彼女に振られ、精神的に不安定になる。
次の主人公、野々花は由人が務めるデザイン会社のアラフィフの女性社長。
貧しい漁村に生まれたが、高校生の時に絵の才能が認められ絵画教室に通うことになるも講師とのあいだに子供をもうけてしまう。
重い過去を背負うようなことになる彼女だが、デザイン会社は経営が行き詰まり、多忙を極め、やはり精神的に不安定になる。
三人目の主人公は高校生の女の子、正子。
神経質すぎる母親を持ち、常に母親の目をうかがって生きている。
親友を亡くしたのを機に引きこもりのようになってしまう。
こうした三人が最後の章で、どのようにつながりどのような結末を迎えようとするのか…。

著者の作品を読むのは『ふがいない僕は空を見た』に続き二作目である。
エロスとタナトスという、言い方があるが前作同様、本作も性(あるいは生といってもいいかもしれない)と死とういうものに縁どられている。
描いていることは重いが文章が軽いせいかスーッと心に入ってくるし半日で読める。
いろいろと考えさせられる小説である。

ネガティブな要素はたくさんあるのだが、ネガティブな物語ではない。
最後の最後で「生きろ」という作者のメッセージが感じられのがいい。

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