『住友銀行秘史』國重惇史
國重惇史『住友銀行秘史』
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売れているらしい

國重惇史の『住友銀行秘史』である。
発売から1週間で10万部を突破したという話題もあり手に取ってみた。
本の扉を開き、最初のページで登場するのが主要登場人物一覧である。
住友銀行のすべての登場人物の役職、入校年度、出身大学が記されている。
これを見ると「ああ、これが銀行なんだなぁ」と思ってしまう。

冒頭での自分を紹介する文章には『MOF担として「國重の前に國重なし、國重の後に國重なし」と言われた』とある。
MOF担(もふたん)とは都市銀行などの大手の金融機関にある大蔵省(現財務省)との折衝を担当する部署で、1998年には大蔵省接待汚職事件などに発展してMOF担という名前が一般にも知られるようになった。
この一言を見る限り、著者は相当な自信家であり、実際やり手でもあったのであろうことが伺える。
著者の経歴をみると住友銀行を取締役まで登りつめた後に、楽天の金融関連企業の社長や会長を歴任し後に楽天の副会長、その後、楽天を辞任し現在はリミックスポイントという電力、省エネ事業、コンサルティング、自動車関連事業の四つの柱を持つ会社の社長である。

本書は1990年、バブル経済の終焉で発覚したイトマン事件の内実を詳細にえがいたノンフィクションである。
イトマン事件とは住友銀行から社長を派遣されていた大阪の総合商社、伊藤萬が不動産や美術品への投資、果ては暴力団等へ不適切な金が流れていたというもので、メインバンクの住友銀行に約5千億円の損失をもたらした戦後最大の不正経理事件とされる。
背景には住友銀行の天皇ともいわれる、磯田一郎会長のワンマン体制があり、頭取といえども彼の意向には表だってそむくことができなかった。
なるほど、当時はコーポレートガバナンスやコンプライアンスなどという言葉も聞かない時代であり、どこも似たり寄ったりではなかったのではなかろうか? とも思う。
イトマンに回収の見込みがないまま巨額の融資を続ける銀行に危惧を覚えた行員たちは、複雑な人間関係の中、事件をどのように着地させるか検討に入る。
渦中にある著者は、日本経済新聞の記者に事件の内実を伝え、イトマン内部の人物を装い大蔵省にも事のあらましを郵送するといった手段に出る。

本書のみでイトマン事件は語れない

この本は著者の当時の役職だった住友銀行の渉外部部付部長という視点から描いたものだが、多くは当時の著者のメモを基に構成されている。
そうした点では当時の多くのメモがナマの文章として記されていたり、当事者だけが知る情報が描かれているので、やたら臨場感のある読み物にはなっている。
しかし、著者のきわめて主観的な回想録といってもよいものである。
この一冊だけ読んでイトマン事件の全体像を語るのは注意しないといけないかもしれない。

ちなみによけいなことだが漫画の『島耕作』シリーズが好きな人は、それなりに面白く読めると思う。

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