『悲しみのイレーヌ』ピエール・ルメートル
ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』
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ミステリー関係の賞を総なめ

フランスのミステリー作家、ピエール・ルメートルの『悲しみのイレーヌ』である。

ルメートルは本作の前に発表された『その女アレックス』という作品でミステリー関係の賞を総なめし、2014年の日本の読書界を席巻した。
この作品は『このミステリーがすごい!2015』の海外部門第1位、『週刊文春ミステリーベスト10』海外部門第1位、『ハヤカワ ミステリマガジン』『ミステリが読みたい!海外編』第1位、『IN☆POCKET文庫翻訳ミステリー・ベスト10』第1位と日本ミステリー界に旋風を巻き起こした。
ほかにも英国の『英国推理作家協会 インターナショナル・ダガー賞』、フランスの『リーヴル・ド・ポッシュ読書賞』を受賞という輝かしい作品である。

そして、その一年後の2015年に日本で発刊となったのが当作品の『悲しみのイレーヌ』である。
実のところ、この作品は著者のデビュー作であり、フランスでは『その女アレックス』の5年ほど前に発表されている。
『その女アレックス』が、あまりにも売れたので、過去にさかのぼって作品を掘り起こしたというのが実情でなかろうか?
そうしたこともあり、本作に登場するパリ警視庁犯罪捜査部の捜査員は『その女アレックス』とかなりの部分重複する。

コンプレックスを秘める主人公

主人公は犯罪捜査部部長のカミーユ・ヴェルーヴェン警部。
なかなか個性的なキャラクターだ。
身長は145センチ。
母親は高名な画家であったが、彼を身ごもっている間の不摂生で身長が伸びなかった。
身長は彼のコンプレックスであり、そうしたことが母親に対して複雑な気持ちを抱かせている。
彼が四十歳にして結婚した、妻のイレーヌは妊娠8ヶ月で身重の状態。
凶悪な事件の捜査責任者でありながら妻を気にかけなければならないと、なかなかヘビーな境遇だ。

捜査の発端となった二人の娼婦の殺人事件は『その女アレックス』同様、猟奇的であり凄惨だ。この事件の手がかりを元に、過去に起こった未解決の事件を追っていくと各々の殺人事件がジェイムズ・エルロイの『ブラックダリア』やブレット・イーストン・エリスの『アメリカン・サイコ』など、実在するミステリーの傑作と類似点があることが浮かび上がる。
このあたり、というか実在するミステリの作品を重要な手がかりとして使うあたり、禁じ手に近いものを感じる。
それにしても、ずいぶんと大胆なことをするものだ。

なぜ、犯人はミステリーの傑作といわれる作品の殺人方法を模倣するのだろうか?
ミステリーを愛する単なる模倣犯なのか?
彼の目的はどこにあるのか?
そこには、読者の想像を超える展開が待っている。

かわいそうなイレーヌとカミーユ

既にタイトルがネタバレであるが、こういう結末は残念である。
ネタバレといって、読者のページを手繰る手を止めるようなものではない。
主人公が無残なほど痛々しいというか、まったくもって可哀相である。
フランス的といえばフランス的なのかもしれないが…。


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