『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
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逢坂冬馬の『同志少女よ、敵を撃て』です。
ロシアのウクライナ侵攻のせいで、図らずも、なんともタイムリーな作品となってしまいましたが、評判の高さにつられて読んでみました。

まず、日本人作家が日本人が一人も登場しない第二次世界大戦の独ソ戦をテーマに取り上げたというのは驚きです。
深緑野分という作家の『戦場のコックたち』を読んだ時も似たような、ある種の驚きを感じたのですが、何がきっかけで、日本人がこういう外国を舞台にした作品を書こうと思ったのか興味のあるところです。
作者がミリタリーオタクというなら多少、わからなくはありませんが、それでも、日本においては、かなりニッチな素材だと思われます。

また、本作が作者のデビュー作というのも驚きです。
デビュー作で、ここまで完成度の高い作品を描けるのかと。

物語の舞台は第二次世界大戦下のソ連。
1942年2月、ドイツ軍は主人公である十八歳の少女、セラフィマの住むモスクワ近郊の村イワノスカヤ村に侵攻。
ドイツ兵は母親や村の人々を殺害。
セラフィマ自身も危ないというときに、赤軍(味方)のイリーナ上級曹長に助けられる。
母親を殺害したドイツ狙撃兵に復讐を誓うセラフィマ。
彼女はイリーナにスカウトされ軍の中央女性狙撃兵訓練学校に入校。
個性豊かな仲間たちと狙撃兵になるべく厳しい訓練をうけ、戦地に赴くのだった。

ストーリーはスターリングラード攻防戦におけるウラヌス作戦なども描かれ、史実に沿った展開で進行します。
また、作中ではリュドミラ・パヴリチェンコといったソ連の英雄といわれる実在の女性狙撃兵(映画にもなった)なども登場して物語に深みとリアリティを与えています。

一般に戦争やミリタリーに主眼を置いた物語というのは、「男の世界を描く」というのが普通だと思いますが、本作はだいぶ違うのですね。
当初は、ロシアの少女が狙撃手になって戦場で活躍するだけの物語だとばかり思ったが、終盤、単純にそれだけの物語ともいえない、あるエピソードが描かれる。
このあたり、とても現代的だとの印象をもった。
10年前には、こうした小説が登場するとは誰も予想できなかったと思う。

ところで、このライトノベルのような装丁は、もうちょっと何とかならなかったのだろうか?(あくまでもオジサンの意見です…)
イラスト自体はきれいで悪くないと思うのだが、オジサンがパブリックな場所で手にするのは少々、気恥ずかしい。
本書は、劇画タッチなのでまだいい方だが、最近、文芸書の装丁に可愛い系のイラストや漫画が使われることが多いような気がする。
こういうのどうにかならないものだろうか?
オジサンに読まれることは想定していませんといわれれば、それまでですが…

最近、ちょっと驚いたのは作者の姉はロシア文学翻訳家の奈倉有里だという。
姉弟でロシアに関わっている文学者というのは、なんか、育った家庭がハイブローな感じを匂わせる。

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