会田誠の『げいさい』です。
著者の会田誠といえば、現在の日本美術界を代表するスーパースターの一人。
そうした人物が書いた自伝的小説とあっては、それだけでも、読んでみようという気にさせる。
で、読み終えて思ったのは「青春だなぁ…」といった感じです。
まぁ、それだけでもないのですが…。
主人公の本間次郎は東京藝術大学を目指す二浪の予備校生。
時は1986年の11月。
彼は恋人や友人たちが入学した多摩川美術大学で行われた学園祭を訪れる。
そこで恋人たちが出演するパフォーマンスを観たことや、その夜に模擬店で行われた打ち上げに参加したことなどを軸に、浪人生活で経験したことや当時、考えていた芸術のことなどが語られる。
本書のハイライトは、「ねこや」という模擬店での打ち上げで行われた美術評論家、助教授、美大生を交えた論争ではなかろうか?
日本の美大は入りにくすぎる問題とか。
美大の入試に石膏デッサンが取り入れられたわけとか。
芸大と予備校は裏で通じている共犯者同士とか。
芸大に合格するには「絵心」というものを脇においてでも、「合格」するためのテクニックが必要な問題とか
美大の受験を経験することで、芸術家としての魂に傷がついてしまう問題とか。
etc。
ここでは、論争という形を借りて著者の意見が投影されている。
ほぼ、著者と同じ時期に大学時代を送った自分は、ノスタルジーに浸って読むことになった。
美大ではなく普通の大学だったが、やはり、大学祭は楽しかった。
多少、美術にも興味はあったので本書でも触れられている「美術手帖」なんかも、よく、立ち読みしてた。
ヨーゼフ・ボイスいたなぁ。
ナム・ジュン・パイクとか。
ローリー・アンダーソンとか。
パルコ文化全盛のころだ。
インスタレーションという様式が一般的になったのはこの頃からではなかろうか?
美大を入学する人は高邁な美術評論もよいかもしれないが、まずは本書から手を付けてみてはいかがだろうか。
なんせ、基本的に面白い。
石川達三の『青春の蹉跌』(古いね)的な事件もあったりして…。
文章も読みやすく、文章を生業とする玄人らしさはないが、そこが自伝っぽくてよい。
美術の素人にしてみれば、美術界の一端を垣間見ることができてそれだけでも、面白かった。