劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)の『三体』です。
翻訳は大森望、光吉さくら、ワン チャイ。
そして、監修が立原透耶。
翻訳者3人、ほかに監修がいるってすごいね!
今年の夏ぐらいから話題になっていて、こりゃあ、読んでみた方がイイかなと思って手に取ってみたわけです。
作者の劉慈欣は1963年生まれの中国のSF作家。
本作はアジアの作家ではじめてヒューゴー賞という権威あるSFの文学賞を受賞したことでも話題になりました。
葉文潔(イエ・ウェンジェ)は女子学生の頃、文化大革命で迫害を受けた科学者。
彼女は中国の僻地にある巨大なレーダーが設置された軍事施設で技術者として働くことを求められる。
そこは、中国の科学技術を飛躍的に躍進させるという意図で地球外知的生命体とコンタクトを図るための巨大な交信装置を整備した秘密施設だった。
1960年代当時、アメリカなどではオズマ計画といった地球外知的生命体とコンタクトをとろうとしたプロジェクトが盛んにおこなわれていた時期である。
文潔は、ある時、受信した電波に地球外知的生命体からのものと思われるシグナルが含まれていることに気づく。
それは、4.5億光年離れたアルファ・ケンタウリの三重連星からのもので「このシグナルに反応するな」といったメッセージだった。
しかし、人生や文明のあり方に失望していた文潔は「来て! 地球は、あなたたちに介入してもらう必要がある」とのメッセージを返信してしまう。
その後、文潔と考えを同じにする人々は「地球三体組織」という結社を組織する。
彼らは三体人の世界をVRで現したオンラインゲームを開発し、同志をスカウトしていく。
しかし、組織が大きくなると色々と問題も起こるわけです。
一方、アルファ・ケンタウリにある地球外知的生命体(三体人)たちは、三つの恒星がある独特の世界のため大きな問題を抱えていた。
そこは、三つの同じぐらいの質量をもつ太陽(恒星)をもつ星系となっているため、各々の太陽の運動に一貫性がなく(これを物理学では「三体問題」という)、三つの太陽が同時に現れれば灼熱の場所になってしまい、太陽が一つも出なければ液体窒素の温度まで冷えてしまうという過酷な環境の惑星だった。
そのため、三体人の惑星では文明が起こっては滅ぶということを繰り返していた。
そんなわけで、彼らは返事のあった地球へのエクソダスを実行に移そうとする。
4.5光年離れた惑星と、文潔はどうやってやり取りするのか?
三体人が地球に訪れるまで、彼らの科学技術では450年かかるが、その間に地球人の科学技術が発展し三体人と同じ程度の科学技術を持つようになる可能性がある。
それを、防ぐために三体人が考えたこととは?
また、オンラインゲームの中で数千万の兵士たちを使って疑似コンピュータを作ってしまうというのは、さすが、人海戦術の中国というか面白いことを考えるなぁと。
つまり、兵士一人ひとりに二本の手旗を持たせ1ビットの役割を与えるわけです。
こうした、多くのSF的なアイディアが本書では描かれていて、このあたりは「すごいなぁ」と思う。
作者が中国人ということもあり欧米のSFとは、やはり、一味違う。
レイチェル・カーソンのことなどにも触れてあり、中国でも多くの西洋の知識が流れ込んでいることがわかった。
文化大革命のことが普通に描かれ、政治体制あたりのことも踏み込んで書かれていたが、中国の作家は二十年もたてば天安門事件のことも描けるようになるのだろうか?
気になったのは、知的生命体とはいえ4.5光年離れた惑星の生命体と地球人が同じように理解できる共通の価値観を持ち得るのだろうかと?
昔のファーストコンタクトをテーマにしたSFでは、このあたりはモヤモヤとした感じで描かれることが多いが、本作ではかなり具体的だ。
物語で発生する多くの事象に唐突感があり、構成も複雑で描かれている内容もSF好き以外には敷居が高い。
まぁ、ハッキリいって読みやすいとは言いませんが、SF好きを標榜するなら、やっぱり読んでおいたほうがいいのかも。