今村翔吾の『童の神』です。
簡単にいうなら酒呑童子の伝説を再構築した歴史小説的な伝奇時代小説。
著書のプロフィールを見ると34歳とまだ若いのに、文章や構成がしっかりしていて感心しました。
テーマも興味深いし、なかなか読ませます。
平安時代、安和(あんな)の変(962年)という右大臣、藤原師尹(ふじわらのもろただ)の謀略によって左大臣の源高明(みなもとのたかあきら)が大宰府に左遷されたという事件から物語は始まる。
登場するのは平安時代に実在した安倍晴明や源満仲、満仲の子の源頼光、そして頼光四天王といわれる渡辺綱(わたなべのつな)、坂田金時(さかたのきんとき)、碓井貞光(うすいさだみつ)、卜部季武(うらべのすえたけ)といった朝廷に使える役人や武将たち。
対するは主人公の桜暁丸(おうぎまる)[のちの酒呑童子]をはじめとした、彼を取り巻く滝夜叉、夷、土蜘蛛、鬼、といわれる京都人から蔑まれた部族たち。
彼らを討伐しようとする朝廷側と主人公の桜義丸がまつろわぬ部族たちをまとめ、一丸となって抗う姿が虚実を取り混ぜて語られる。
平安時代のことは、ほとんど知らないのでわからない言葉が出てくると辞書を引きながら読みました。
健児童(こんでいわらわ)、粛慎(みしはせ)、奴婢(ぬひ)、国衙(こくが)、etc。
日本中世史や民俗学の勉強にも、大いになります。
以前、井上章一という教授が書いた『京都ぎらい』という新書を読んだ時にも感じたのですが京都人には昔から、一種の中華思想的なものがあるようです。
これは、もう、自分だけでなく一般的な共通認識としてあるのではないでしょうか?
なにせ、京都の中ですら洛中(北大路通、東大路通、九条通および西大路通の内側あたり)に住む人は洛外に住む人を格下にみるような差別があるらしいですから。
驕りといって、よいかもしれません。
それでも都人といわれる人々の歴史と文化を考えれば、これは、仕方のないことなのかもしれませんねぇ…。