藤沢周『武曲(むこく)』
藤沢周『武曲(むこく)』
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藤沢周の『武曲(むこく)』です。
タイトルからして読めませんでした。

ページを開き、最初から緊張感を持つ一つひとつの語句が疾走するような文章で、これは骨のある小説だなと。
“守破離”、“非有非空”、“斬心明鏡”、“滴水凍水”といった「偈(げ)」といわれる耳なじみの薄い漢詩の一節のような禅の言辞が多用され、そのことに惑わされる。
また、これほど主人公の心象を彫り込むように描いた小説も、昨今、珍しい気がする。
かといって、読者をしらけさせるほどではない。
そのあたりの、塩梅が上手いと思う。

入りは決して読みやすい小説とはいえないかもしれない。
しかし、しばらく読んでいくと体がそのリズムと同調し、読むスピードも上がり妙に心地よくなっていく。
文章に煌めいているし、豊穣だ。

主人公は鎌倉学院高校に通う2年生の羽田融。
ヒップホップ好きで新しいコトバをコレクションしているという今どきの高校生だ。
もう一人の主人公、三十歳になる矢田部研吾は羽田の通う高校で剣道部のコーチをしている。
アルコール中毒で仕事を失い警備員として働いている研吾だが、彼には暗い過去があった。
その二人が互いに意識し、剣道で対峙するようになっていく。
彼らを取り持つのが高校の隣にある禅寺の住職、光邑雪峯(みつむらせっぽう)という剣道八段の範士。
この住職が、まるで宮本武蔵にとっての沢庵和尚のような存在感を醸す。

読んでいて、昔のアニメ「巨人の星」を思い出した。
試合を描く様子が、マウンドに立った星飛雄馬が振りかぶって球を投げキャッチャーミットに収まるまで、その間10分もかかるような感じと似ている。
実際、本作も青春スポ根といっていいような作品ではあるのだが、単純にそれを許さない暝さと苦さがある。
文庫本の背表紙の紹介にある「剣豪小説」というほうがピッタリくる。

著者の藤沢周といえば、NHKのBSでやっていた週刊ブックレビューで司会をやっていたのを思い出す。
彼の作品は初めて読むのだが、正直、こんなに書ける人だとは思わなかった。
スミマセン。
SHOHEIによる挿画や城井文平の装丁もイイ。

ところで、剣道をちゃんと学んだ人、範士といわれるような人は本作をどう読むのだろうか?
そのあたり、感想や意見を聞いてみたい。

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