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やっぱり、面白い黒川博行
彼の作品はいくつか読んでいるが、発行されている順に読んでいる訳ではない。
本作は直木賞を受賞した『破門』の前年に発行された作品だが、やっぱり、読ませる。
疫病神シリーズといわれる『破門』と比べれば、やや、落ちるがそれでも安定の面白さ。
関西ノワールを書かせたら、もはや、職人芸といった域である。
練達の文章は安定感があり安心して読める。
重すぎず軽すぎず。
イタリアのライトウェイトスポーツカーのような瞬発力と軽やかさがある(乗ったことないけど)。
会話がいい。
登場人物たちも生き生きしている。
ディテールがしっかり描かれているから生活感がある。
物語に遊びがある
開高健はミステリーには「いい意味でのディレッタンティズムが発揮されるのが望ましい」と、どこかで書いていたがストーリーの骨格とは、少しばかり離れた余技としての教養や知識が作者の物語にはある。
つまりは、物語の中にも遊びがある。
例えば映画好きの上坂に言わせる映画についてのセリフは作者自身のセリフでもあるのだろう。
小説における小道具も、ちゃんと描かれている。
特にミステリーなんかの場合、腕時計がロレックスかカシオか、というだけで人物の一面がわかるというものだ。
小道具のディテールがしっかり描かれているから、リアリティがある。
やり手の刑事が堕ちていく様が描かれる
主人公は大阪府警察本部、刑事課薬物対策課の桐尾。そして、同僚の上坂。
同期の二人は34歳。
所内では中堅どころといった働き盛りの刑事だ。
桐尾と上坂は、やくざの覚醒剤保持の家宅捜索中に拳銃を発見する。
この拳銃が和歌山県で発生した銀行の副頭取射殺事件で使われたものだと判明する。
二人は専従捜査を命じられ、和歌山県警で当時、射殺事件を担当していた満井という刑事と組むことになった。
この満井と出会ったことで二人の運命は変わっていく…。
物語は最後の数ページでガラリと展開が変わる。
いわゆる、オチというやつである。
かなり、あっさりとしたオチではあるが、これはこれでよいのではないだろうか。
本のタイトルは『落英』である。
きっと、俊英が堕ちていく物語だろうとは思ったが…。
蛇足ですが…
「近畿地方の警察には二強三弱一虚弱という囃言葉がある」と書いてある。
二強は大阪府警と兵庫県警、三弱は京都府警、滋賀県警、奈良県警、一虚弱は和歌山県警だという。
和歌山県警には迷宮入り事件が多く、捜査能力が低いと評されているらしい。
これを読んだ和歌山県警の方々は、心中、穏やかでないのでなかろうか?