乾石智子の『夜の写本師』です。
最近、著者が山形県出身と知り「読んでみたいなぁ」と思っていた一冊。
池上冬樹氏が世話人を務める「小説家になろう講座」のおかげが大きいと思うが、このところの山形出身の小説家の躍進はすごいですね。
ちなみに本作の著者は同講座の出身ではないようです。
さて、本作だが久しぶりに読むファンタジーである。
基本、ファンタジーは嫌いじゃない。
ファンタジーという響きには、ちょっとした心を高揚させる感じがある。
『夜の写本師』というタイトルにも、妙に心惹かれるミステリアスな雰囲気がある。
ファンタジーには、ハイ・ファンタジーとロー・ファンタジーがあることをこの本のことをネットで調べて初めて知った。
ハイ・ファンタジーとは現実とは違う世界を物語の舞台にしたもので、ロー・ファンタジーとは現実の世界を舞台にしたものだそうだ。
ほう、そうなのか…。
ということは、本作はハイ・ファンタジーなのですね。
物語は一言でいうなら弱者が強者を倒す復讐劇と言ってよい。
それも千年といった時間で語られるスケールの大きな作品だが、何世代にもわたる大河小説というのもチト違う。
暴力や登場人物の死が常にまとわりつくせいか終始、ダークな雰囲気を漂わせている。
また舞台となる土地の描写や雰囲気には中東やトルコ、そして付近の地中海沿岸あたりを想像させるオリエンタルリズムがある。
読み始めはファンタジー特有とも言っていい、音の響きがな独特な登場人物たちの名前(カリュドウ、アンジスト、エイリャ、etc)や土地の名前(パドゥキア、エズキウム、etc)にしっくりこなかったが中盤までいくとそのあたりもようやく慣れて、なんとか読み進むことができた。
読んでいると想像力に乏しいせいか、魔法が発動されたシーンがとても大掛かりで状況を思い浮かべられないようなシーンが幾つかあった。
人智の及ばないところが、あるからファンタジーなのだが…。
その辺も含め、なんとなく全体にモヤモヤ感が残ったが、児童向けとは違う本格的なファンタジーといってよい作品なのは間違いない。