佐藤賢一の『新徴組』です。
幕末の新徴組を描いた佐藤賢一の小説があることは知っていたが、先日、上山市で行われた岩井哲氏による「戊辰戦争と上山藩」という講演を聴き、改めて幕末の山形県関連の物語を読んでみようと思い手にとってみた。
『新選組』はあまりにメジャーだが『新徴組(しんちょうぐみ)』を知っている人はどれだけいるのだろう?
かく言う、小生も新徴組についてのあらましは、本書を読んではじめて知った。
新徴組とは江戸幕府が組織した江戸市中を見廻る警察組織のようなもので、その運営には庄内藩があたった。
ちなみに「おまわりさん」の語源は江戸市中の治安維持のために巡回した新徴組のことを町人が「御回りさん」と呼んだことに始まるらしい。
主人公は新選組一番組長の沖田総司の義兄、沖田林太郎。
林太郎が登場するあたりで「ほう、新徴組には沖田総司の義兄も参加していたのだね」とちょっと驚く。
そして、その上役に庄内藩家老の長男、若き俊英の酒井吉之丞。
吉之丞は、フランス式の兵法を取り入れたり本間家という酒田の豪商の財力を用いて最新の銃を用意したりと進歩的で優れた人物だったという。
このあたり長岡藩の河井継之助を髣髴とさせる。
庄内藩は酒井吉之丞の活躍や領民の支えもあり、新政府軍相手に連戦連勝といった戦績を残す。
読み進むと「へぇー、天童の市街は戊辰戦争で庄内藩の焼き討ちにあい、焼け野原になったのか」といった具合で、郷土の幕末における歴史について、ほとんど何も知らなかったのだと痛感!
余計なお世話だが、鶴岡市と酒田市は武士文化と町人文化の町ということもあり、あまり仲が良くないと言う話はよく聞くけど、天童市と鶴岡市の仲が悪いと言う話は、あまり聞かないが、現在も天童市民には、そうした遺恨じみた感情はあるのだろうか?
幕末の歴史は薩長土肥といった官軍に作られ、そうした視点で描かれた小説は数多くあるが、反面、幕府側、中でも東北の小藩の立場で描かれた小説はほとんどないのであろうか?
そうした意味では、稀有な幕末小説かもしれない。
著者の佐藤賢一は、鶴岡に生まれ現在も鶴岡に居を構えている。
この幕末の庄内藩という素材を考えると、満を持しての作品といったところか。
小説であるがゆえに、主人公や庄内藩をきれいに描きすぎているような気がしない訳でもないが、もう少し、郷土の歴史を勉強してみようと思わせてくれた一冊だった。