飯嶋和一『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』
飯嶋和一『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』
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飯嶋和一の『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』である。
著者が描く物語の主人公は清廉な人たちが多いが、この物語の主人公も実に清々しい。

主人公は大塩平八郎の乱で平八郎とともに蜂起した西村履三郎を父に持つ西村常太郎。
常太郎は乱を導いたという父の罪により15歳で隠岐に遠島という刑を受ける。
隠岐に到着すると常太郎は大塩平八郎の乱という窮乏した農民や町民ために蜂起し、その罪に連座した人物の子息ということで島の人々から一目置いて迎えられる。
そこで、彼は島の医師、村上良準に預けられ医術を学び始める。

やがて医者として一人前になった常太郎は種痘という西洋医学の技術を導入したり、当時、恐れられたコレラや麻疹が島に伝染すると、その治療にひたむきに対処する。
2部や3部はそうした、主人公の医者としての活躍が描かれる。

きっと著者は漢方薬についても多くの勉強をしたのだろう。
例えば「大量の発汗と下痢によって脱水症状が著しいことから、熱量を増し体力の不足を補うために「附子」を含む『四逆加人参湯』がまず頭に浮かんだ。しかし、尿の出も少ないままで、のどの虚渇を訴えたことを含めれば「茯苓」をも含む『茯苓四逆湯』に行き着く。それで行こうと腹を据えた。」といった様々な漢方薬の名前が多くの個所に登場する。
こうした薬の処方や治療の方法が生々しく描かれ、読む者に緊張感を与える。

物語は4部で構成されているが1部の若い常太郎が大人に成長していく様子や、島のすがすがしい空気感がいい。
この1部だけでも、読む価値のある小説だと思う。

最後の4部は隠岐で実際にあった、隠岐騒動という島民と松江藩との間に起こった騒乱のことが中心に描かれ、主人公の常太郎がないがしろにされている感があり小説としてはイマイチ冗長。
作者が描きたいという気持ちは分からなくもないのだが、4部の隠岐騒動の背景や史実の説明は大幅にカットしたほうが小説のできとしてはよかったような気がする。

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