原田マハの『楽園のカンヴァス』です。
第25回山本周五郎賞受賞作。
大人のファンタジーであり、よい恋愛小説だなぁと。
恋愛小説と言うには、恋愛の要素が少ないような気がするが、でもやっぱり、恋愛小説なのだと思う。
実在する倉敷にある大原美術館やMOMA(ニューヨーク近代美術館)が登場したり、舞台がスイスのバーゼルに移ったりで、およそ日本の小説らしくない、ダイナミックでスピーディーなストーリー展開。
やや、緻密とは言い難い感じもするが、エンターテイメントしては十分楽しめるし、知的興奮も味わえる。
主人公は倉敷に住み大原美術館で一介の監視員として働いている早川織江。
高校生の娘を持つ彼女には、かつてパリのソルボンヌをコース最短で博士号を取得し、若く美しい女性美術研究家として美術史論壇に名をはせたという隠された経歴があった。
もう、この時点でファンタジーだわなぁと思わせる。
彼女が気鋭の美術研究家として名をはせていた十七年前、ニューヨーク近代美術館(MOMA)の若きアシスタント・キュレーターとともにスイスのバーゼルに住む富豪の絵画コレクターからアンリ・ルソーの大作の真贋を依頼されたというエピソードを軸に物語は展開する。
最後に判明する大どんでん返し。
アイディアがいいし、何より面白い。
アンリ・ルソーがこんなにもフューチャーされた作品がこれまで、あっただろうか?
基本的にルソーは好きな画家だが、いいなと思うものと、イマイチだなと思う作品の振り幅がものすごく大きい。
リアルな現実を描いた作品の中には、日曜画家と言われたのも頷ける遠近感がなくバランスの悪い、なんとも稚拙な印象のものも多く、味があっていいねと言われればその通りなのだが、やはり傑作とは言いがたい。
よく行く、近くの美術館にもルソーの小品が一つあるが、やはり、ちょっとビミョウといった感じだ。
しかし、彼が描くジャングルや砂漠など南国をモチーフにした空想の世界の作品の多くは、傑作だと思うし、強い輝きを感じる。
もしも、ルソーにジャングルや砂漠などの南国を想像で描いた作品がなければ、いまのように名を残す作家になっていたのだろうかと思う。
小説にもあるが、ルソーはキュビスムやシュルレアリスムに、おおきな影響を与えていく。
そこにあるのは子供が絵が描くのと同じような純粋さであり、作中でいう天才性だったのだろう。
装丁の絵は作中にも登場するMOMA所蔵のルソーの「夢」。
ちなみに美術評論家で大原美術館館長でもある高階秀爾氏は、この小説を読んで、どういった感想をもっただろう? 聞いてみたい気がする。