笹本稜平の『春を背負って』である。
高校生の頃は、新田次郎の『孤高の人』、『栄光の岩壁』、『銀嶺の人』といった山岳小説を読みふけった。
その影響で、短い間だったが「山と渓谷」や「岳人」なんていう登山の専門誌も読んだりしていた。
当時は人類初のエベレスト無酸素登頂に成功したラインホルト・メスナーがスーパースターでたくさんの広告にでていた。
そんな訳で山には憧れた。
それでも結局、山には登らなかった。
お金がないことが一番の理由だったが、新田次郎の小説で山の怖さを知ったことも理由の一つになったのは間違いない。
いつしか、山のことは頭の隅においやられたが、今でも、基本、山は怖いものと思っている。
山岳小説と言うと、どうしても登山家の生き死にを描いた悲壮感の漂う壮絶なものを思い浮かべる。
しかし、数編の短編で構成されたこの物語は、どこかほろりとさえるものが多くいわば、ほのぼの系。
山がモチーフになれば、やはり人の生死がテーマとして扱われるが、あまり生々しい描かれ方はしていない。
思えば、こういうほのぼの系の山岳小説はあまりなかったような気がする。
いまどきの山ガールといわれる人たちには受けるだろうなと思う。
山に行ってみたいなと思わせる小説だ。
それでも山に登る人は、やっぱり新田次郎の小説で山の怖さを知る必要もあるかなと思う…。