奥田英朗の『サウスバウンド』である。
主人公は普通の小学六年生の二郎。
物語は彼の視点で語られる。
父親の上原一郎は頑固一徹でどこまでも筋をとおそうとする学生運動出身の元過激派。
となると、周りの人間たちとはいろいろと摩擦が起こるものである。
その理解者である母親と父の意向で一家は東京を捨て沖縄へ移住することとなる。
そこで起こる開発業者との騒動。
さほど期待はしなかったのだが思わぬ収穫だった。
ところどころで、クスクスと笑ってしまう。
いや、ホントに奥田英朗の作品らしい「明るくて面白くて、元気をもらえる小説」である。
以前、直木賞をとった『空中ブランコ』もストレートに面白い短編小説だった。
本作は長編だが、ハチャメチャでパワフルな? 登場人物が常識人たちの日常をかき回すといったストーリーは『空中ブランコ』と同じである。
しかし、『空中ブランコ』ほど、スラップスティックな感じはない。
しかし、この作家のうまいところはコメディーに終始するのではなく、人の心の機微をつくところを上手におさえているところにある。
読んでいて、ちょっと、ホロッとさせる。
読みようによっては二郎の成長を描いた青春小説だし、ちゃんとした家族小説である。
誰にでもオススメできる小説というのはあまりないものだが、これは本当にオススメです。
ちなみに『空中ブランコ』もおすすめです。