『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ
ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』
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ディーリア・オーエンズの『ザリガニの鳴くところ』です。
翻訳は友廣純。

読み始めは、鬱々とした暗い話かなと感じた。
主人公の少女、カイアの境遇がどうにも救われない。
この調子で、ずっと続いたら、たまらんなと思いながら読み進めるとボーイフレンドのテイトが登場したあたりから、感じがかわってきた。
視界が開けてきたとでもいうのだろうか。

物語の舞台は1950年から60年代にかけてのアメリカ。
東海岸の中央、ノース・カロライナ州の海辺に面した湿地。
そこに建つあばら家に一人で住む、白人の少女、カイア。
父親の暴力のため母や兄弟は家を去り、いつしか父親も帰らなくなってしまった。
お金もなく、教育を受けることもなく村の白人たちからは蔑まされ、漁で獲った貝を黒人の夫婦が経営する燃料店に持ち込んで収入を得るような日々を送っていた。
それでも自然を友するカイアの心は荒むことはなかった。
極貧の生活の中で、出会った一人の少年、テイト。
親切で紳士的なテイトにからカイアを多くのことを学んでいくが、やがて、テイトはカイアから去ってしまう。
その頃、カイアの前に現れたのは村で人気の青年、チェイス。

数年がたち、湿地にある古い火の見櫓の傍で、チェイスの死体が発見される。
村の保安官や村人たちは湿地の少女といわれたカイアに犯人の疑いを向ける。

実をいうと『ザリガニの鳴くところ』というタイトルが自分には全然、刺さらなかった。
おそらく帯にある「2019年にアメリカで一番売れたミステリー」という惹句がなければ購入してないだろう。
そもそも、「ザリガニが鳴くのか?…」と。
大方の日本人はそんな風に思うのではなかろうか?
まぁ、エビが鳴くというか音を発するのは判らなくはない。
キュッとかキィーッとか鳴く? を耳にしたことはあるが…。
鳴くでよいのだろうか?
ちょっと気になって原題を調べてみると『Where the Crawdads Sing』とある。
なるほど、…。
Crawdadsはザリガニの複数形なので「ザリガニの歌うところ」でも、よいような気がする。
このあたり、翻訳者も悩んだのではなかろうか?
こうしたことも勘案して「鳴く」にしているのだろうから、きっと「鳴く」でいいのだろう。

詩情のある、よい小説だとは思う。
1950~60年代のアメリカの海辺の田舎の生活や、その雰囲気を味わうにはなかなかよい。
しかし、ミステリーという視点でみると描き方が浅いかな。
主人公に嫌疑のかかった殺人事件の法廷でのシーンなど、少々、雑な感じを受けた。
この小説なら、ミステリー仕立てにする必要はなかったような気がする。
ミステリーではなく、恋愛小説に仕立ててもよかったのではなかろうか?

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