吉田修一『太陽は動かない』
吉田修一『太陽は動かない』
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吉田修一の『太陽は動かない』です。
吉田修一といえば、『パークライフ』や『横道世之介』、『悪人』といった人物模写に重点を置いた柔らかな作風の作家というイメージで、こうしたビジネス小説とも読めるミステリーといったジャンルに踏み込むとは思いもよりませんでした。
本書の帯にはスパイ大作戦とあるが、まさに映画「ミッションインポッシブル」といった風のエンターテイメントで劇画的です。

主人公はAN通信というアジアのニュースを配信している小さな通信社に籍を置く鷹野一彦。
しかし、AN通信の実態は国家や企業の極秘情報を収集し、最も高く買い取る組織や国家に売るという秘密組織(なんか、陳腐な表現ですが)だった。
物語は新疆ウィグル地区の反政府組織が中国で行われるサッカー日本韓国戦のスタジアムを爆破させるまでが前半の山場として語られる。
そして、その事件を解明していくと、中国の巨大なエネルギー企業が秘密裏に宇宙太陽光発電の実現化に向けて動いているという情報にたどり着く。
しかし、その実現には日本で開発されつつある技術が必要だった。
その背後にうごめく、ミステリアスな女や企業家そして、権力者たち。
主人公をはじめとした組織とエネルギーの利権を得ようとする企業や国家間の極秘情報をめぐる攻防戦がスリリングに描かれる。

実現には遠いですが、宇宙太陽光発電という画期的なアイディアは現実に研究されているものです。
宇宙空間に太陽光パネルを打ち上げ、そこで得た電力をマイクロ波やレーザーに変換し地上の蓄電施設に送信するというもので、実現すれば現在の地上太陽光発電に比べ電力ロスの少ない効率的な発電システムとなります。
これが、本作の大きなアイディアの一つになっています。

読んでみて感じたのは、経済小説やミステリーというカテゴリにしては全体にエッジが立っていないかなぁ…。
真山仁や黒木亮、高杉良ほど硬派でありません。
やはり、作者のこれまでの作風に似た柔らかさがあります。
どちらかといえば橘玲あたりと似た雰囲気はありますが、橘玲ほどリアリティは感じられません。
また、それなりに説得力を高めるような背景は描かれていましたが、ウィグル過激派が日韓戦の行われるサッカースタジアムを爆破するという設定が、どうもしっくりこない。
主人公が属するという秘密組織も狩撫麻礼や小池一夫の漫画に登場しそう。

蛇足ですが、最近、この手の小説や映画に触れて思うことがある。
主要人物の一人に必ずのようにコンピュータのシステムに精通する人物がいて、紆余曲折や苦労があったとしても最終的には魔法のように重要な情報にアクセスできてしまうということ。
これは、作家や製作者にとってトランプのジョーカーと同じで、ゲームを簡単になんでもありにしてしまいます。
例えば(本作に、こんな文章はありませんよ!)「彼はスマートフォンにコードを打ち込むとシステムに侵入し、組織の口座からパナマの口座に100万ドルを振り込んだ」とか「危機一髪のところでNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)のシステムに侵入し、ICBMを敵国へ向けて発射させた」とか、不可能なことを数行で簡単に可能にしてしまう。
ジョーカーは、よほど気をつけて使わないと作品全体を陳腐にしかねませんね。

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