奥田英朗の『向田理髪店』です。
久しぶりに読む奥田英朗の作品。
彼の小説は読めば面白いのは、わかっている。
はずれることは、あまりない。
本作も、そうした期待を裏切ることない連作短編集だった。
雰囲気的には『家日和』や『我が家のヒミツ』あたりと同じ流れを汲む作品ともいえる。
まぁ、奥田作品の中では佳作といったところでしょうか。
舞台は北海道の夕張市をモデルにしたような過疎の町、苫沢町。
主人公は、そこで理髪店を営む向田康彦、53歳。
苫沢での生活は毎日がルーティンだ。
同じ人と顔を合わせ、同じ会話を繰り返し、同じ時間を過ごす。
繰り返しの毎日では何か一つでも違ったことが起これば事件になる。
康彦の息子の和昌が札幌での仕事を辞めて帰ってきたり、苫沢町に薄幸そうな美女がスナックを開店したり、苫沢を舞台に映画が撮影されたり…。
そうした苫沢町で起こる小さなエピソードをユーモアとペーソスのある筆致で描いている。
ストーリーといえるほどのモノはなく、日常のスケッチのような作品だが退屈ではない。
読んでいて、倉本聰のドラマ『北の国から』を思い出してしまった。
著者の作品の『無理』や『最悪』といった長編も地方の問題をあぶり出していた。
本作で描かれていたが、人間関係が面倒な田舎の事情を、よく、わかっているものだと感心する。
とはいえ、田舎の人(著者自身は岐阜市の出身)が田舎を書いたという感じがしない。
田舎のことは書いているが描き方が洗練されているし都会的なのだ。
自分自身、田舎の小さな町で生活しているが面倒なことをポジティブに考えられるようなると意外と状況はうまく回りだす。
そんな風に思ったりして毎日を過ごしている。
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