藤沢周平の『よろずや平四郎活人剣』です。
十数年前に読んで以来、本作を読むのは二度目。
ずーっと、また読みたいなぁと思っていた。
連作の短編集で結構、長い作品だが今回も面白く読むことができた。
娯楽時代劇という言葉がこれほどピッタリな小説はないのではなかろうか。
まず、詩情がありユーモアがある。
そしてラブストーリーも血湧き肉躍るようなアクションもある。
サービスたっぷりの時代劇だ。
主人公の神名平四郎は知行千石の旗本の末弟(おそらく四男)。
亡父が台所働きの下女に産ませた子ということもあり神名家では肩身が狭い。
そんな訳で、神名家を出るべく雲弘流という流派の道場で親しくなった腕に覚えのある二人の友人、明石半太夫、北見十蔵と道場を立ち上げようとするが明石の裏切りで計画は頓挫してしまう。
道場を立ち上げると実家を飛び出したのはいいものの、長屋住まいの平四郎は糊口をしのぐために、よろずもめごとの仲裁という商売を始めることになる。
当初は仕事に事欠いていたが、いずれ夫婦のもめ事仲裁から養子の斡旋、仇討の取り下げの依頼など様々な頼み事が持ち込まれる。
そして、時には長兄の監物(けんもつ)のお役目がらみの仕事もやらなければならない。
言ってみればお人好しの探偵といったところか。
監物の敵役で登場する鳥居耀蔵は実在の人物。
十二代将軍、徳川家慶の下、老中である水野忠邦の天保の改革の下、目付や南町奉行として江戸庶民には恐れられるほどの圧政を行い、洋学者たちを弾圧した。
文章は過不足がなく、読者が結末を想像できる段になったら、すっぱりと物語を切り上げてしまう。
だらだらと、最後まで書かないところもある。
絵やデザインでいうところの、余白が活きているかんじとでもいうのだろうか。
ゆったり読める。
やっぱり、上手い。
ホント、職人だと思う。
もはやかなわないが、現代を舞台にした探偵や警察もののミステリーなんか書いて欲しかったなぁ。
たまには、名人芸に触れたくなる。
いずれ、また、そんな感じでひも解くのだろうなと思う。