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『犬の力』の続編となる大作
ドン・ウィンズロウの『ザ・カルテル』である。
翻訳は峯村利哉。
この作品も、前作に劣らず上下巻で1200ページを超える大作である。
「この作品も」というのには訳があって、本作は2009年に刊行されたアメリカの麻薬取締局(DEA)の捜査官アート・ケラーとメキシコの麻薬カルテルとの領主アダン・バレーラとの愛憎まみえる壮絶な戦いを描いたノワール大河小説ともいえる傑作『犬の力』の続編である。
『犬の力』は5年ほども前に読んだが、いやはや、この小説には圧倒された。
もはや、簡単にミステリーなんていえないと思った。
メキシコを舞台にした麻薬戦争の物語なのだが、描かれているのは麻薬の恐ろしさではない。
人間の恐ろしさである。
憎悪が暴力を生み、不安は裏切りを生み、連鎖となり断ち切ることができない。
ここで描かれているのは殺人や虐殺が日常茶飯事という普段の生活である。
そして本作の『ザ・カルテル』でも描かれているモチーフは、基本、前作同様である。
始まりはビーキーパー(養蜂家)
物語は2004年から始まる。
『犬の力』の結末が2004年なので、物語はインターバルを置かずに、その続きが始まるわけである。
前作で麻薬王のアダン・バレーラを刑務所送りにした主人公の麻薬捜査官、アート・ケラーはアメリカのニューメキシコ州にある修道院で養蜂家として身を隠している。
しかし、麻薬組織から自分の首に賞金が賭けられているのを知り居所を転々とするが、立ち寄った場所でアダン・バレーラが脱獄したことを知る。
ケラーは麻薬取締局(DEA)に復職しメキシコで麻薬組織の殲滅、そしてアダン・バレーラの再逮捕という任務に就く。
一方、刑務所を脱獄したアダン・バレーラは官憲のみでなく同業者との抗争にも勝ち抜かなければならない。
どちらも、なかなか大変なのである。
著者の麻薬戦争を憂いる気持ちが伝わるような熱い小説。
前作の免疫があるせいか『犬の力』ほどの衝撃はなかったが、前作にも増して物語が複雑に絡み合い熱を帯びている。
登場人物も多く、読み切るのはなかなか骨だが(つまらないということではない)得るものも多い小説である。
このシリーズを読んで、思うのはメキシコにおける麻薬戦争の凄まじさである。
そして、自分も含め、日本人はメキシコを含む中米の麻薬戦争について、あまりにも無知であることを知らなければならない。