『鳩の撃退法』佐藤正午
佐藤正午『鳩の撃退法』
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佐藤正午の『鳩の撃退法』です。
ものすごく、久しぶりに読む佐藤正午の小説。
大学生の頃に著者の青春小説は、何冊か読んだ記憶がある。
以来、あまり佐藤正午の名前は聞かなかったなぁと思いながら、最近、書評サイトでこの小説が高評価なことを知り手に取ってみる。
第六回山田風太郎賞も受賞したという。

最初の数ページを読んだところで「穏やかで柔らかな小説だなぁ」と思ったのもつかの間、登場したバーのマスター一家の失踪でミステリーにも似た様相を呈してくる。
が、しかし、である。
この小説、一筋縄ではいかなかった。
そうか、こういう方法で来たかという感じ。
あらすじを説明するのも、複雑で随分と骨が折れるのだが、ざっと説明すると次のような感じになる。

主人公の津田伸一は地方都市に住む作家。
津田の知人の女は「津田さんこう見えても元作家なんだし、直木賞だって二年連続受賞してるんだから」といっている。
(蛇足ながら、現時点で佐藤正午は直木賞を受賞していない。ちなみに、2年連続直木賞受賞というのは、ありえない)
それでも昔は、かなり売れた作家であることをにおわせる。
津田は友達とも恋人ともつかない女性の住まいに居候をし、デリヘルの女の子の送迎をするドライバーをやりながら自堕落な生活を送っている。
ある夜、常連となっているドーナッツショップで、幸地秀吉というバーのマスターと知り合う。
しばらくして、津田と懇意にしている老齢の古書店の店主が亡くなる。
津田は店主から形見としてキャリーバッグに入った数冊の本と3,000万円を超える札束を受け取る。
いつも金に困っている津田は困惑するが、札束の1枚を床屋で使ってしまう。
その後デリヘルの社長から使った1枚が偽札であることを知らされ、この件に「本通り裏のあのひと」と言われるやばい組織のボス、倉田健次郎が繋がり、偽札には今後、一切関わらないようにと釘を刺される。
やがて、以前ドーナツショップで知り合った幸地とその妻と娘を含む一家が行方不明になった事件にも倉田健次郎が関連していたことを知る。
そして物語は地方の繁華街から東京は中野ふれあいロードのスナックへと舞台を移す。
……。

というようなことを、主人公の津田自身が小説に起こしているという状況が小説のなかで描かれる。
いわゆる、メタ小説という手法である。

構成は込み入っており時間軸は前後するし、偽札や一家の失踪の謎に迫る展開もジリジリと進まない。
だからといって、読者が置いていかれるという訳でもない。
このあたり、作者のポテンシャルというものをものすごく感じさせる。
文章も柔らかいしユーモアもある。

とはいっても、決して入り込みやすい小説ではないかな…。
まあ、不思議な小説だ。

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