新田次郎『劒岳―点の記』
新田次郎『劒岳―点の記』
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映画化されて話題

新田次郎の『劒岳―点の記』です。
最近公開された映画『劒岳―点の記』が話題になっているのに触発されて読んでみました。
新田次郎は久しぶりです。

高校生の頃、夢中で読んだ

彼の作品は高校生の頃、ずいぶん夢中になって読みました。
中でも『孤高の人』、『銀嶺の人』、『栄光の岸壁』といった一連の山岳小説は、授業中も隠れてむさぼるように読んだ記憶があります。
おかげで、山にこそ登りませんでしたが一時は『山と渓谷』や『岳人』といった雑誌まで講読していたほどです。
彼が書く小説は成功体験やハッピーエンドで終わるものばかりではありません。(この作品は、どちらかといえばハッピーエンドです)
山で遭難して亡くなるなど、悲しい結末で終わるものの方が多いかもしれません。

共通して言えるのは、登場する主人公たちは真摯で正直な生き方の人たちが多いということです。
そうした生き方に共感を持って描いているためか、その読後感は清々とした爽やかな気持ちになるのかもしれません。
また新田次郎の作品には熱心な取材と多くの資料に基づいた緻密さと、資料や史実の隙間を埋める確かで豊かなたたずまいがあります。
それは、この『劒岳―点の記』も例外ではありません。

個人的には主人公の柴崎芳太郎も悪くはありませんでしたが、案内人の宇治長次郎に魅力を感じました。
そして、奈良から平安時代の時分に登頂したのであろう修験道の行者はどのようにして、何のために登り、そしてちゃんと生還することができたのか? 興味のあるところです。
巻末に小説を補うようにして掲載してある「越中劒岳を見詰めながら」という作者の取材記はお得感があります。
残念なのは新田次郎が亡くなってしばらくたちますが、未だその席を埋める作家が見当たらないことでしょうか。

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