飯嶋和一『出星前夜』
飯嶋和一『出星前夜』
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飯嶋和一の『出星前夜』です。

真面目で骨太で硬派な時代小説。
前作の『黄金旅風』同様こちらも装丁が美しい。
物語は第一部と第二部に分かれ、600ページを超えるなかなか長い小説です。

舞台は島原の乱

舞台は島原の乱。
しかし、主人公は天草四郎ではありません。
時代は三代将軍家光の世に移ったばかりの頃。
九州の島原は幕府からキリスト教が禁じられた以降も、キリシタンとしての風土が深く残る土地柄だった。
松倉藩が治める島原の有家(ありえ)という村では傷寒(しょうかん)という流行り病が蔓延し幼い子どもたちが次々と亡くなるという事態が生じていた。
そうした状況に至る原因には村を治める藩や代官の圧政があった。
無理な年貢の取立てに苦しむ農民たちの間では、食べることもままならずそのしわ寄せが体力のない子どもたちにきていたのだ。
有家に住む村の若衆の一人、寿安(ジュアン)はそうした、圧政に忍従する大人たちの対応に反感を持ち森の教会堂で村の若衆や童たちの先頭に立って共同生活を行うようになる。
そうした折、村の代官所から出火し炎上するという事件が発生する。
代官らは寿安たちの仕業と決めつけ、一触即発の事態となるが有家の庄屋、甚右衛門(鬼塚監物)が寿安ら若衆と藩の間に立ち騒動を収拾しようと奮闘する。
ここまでが第一部、第二部では、そうした事態は簡単には収まらず、天草で蜂起したキリシタンと一緒に「島原の乱」へと広がり収束に向かう状況を描いている。

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島原の乱の原因は…

これを読むまでは「島原の乱」というのは単にキリシタンが信仰の自由を求め蜂起したものと思っていたが、実際は島原の松倉藩による圧政や豊臣側についた藩の処置をめぐる徳川幕府の対応の拙さなど、諸条件が重なり内乱ともいえる事態を招いたといえる。
歴史は決して一面的なものではなく様々なことが重層的に積み重なってできているのだ。
第一部が甚右衛門と寿安の物語なのに対し、第二部は島原の乱全体が描かれるようになり、やや説明的な解説が多くなってしまったのは残念だが、デテールがしっかりと描かれているため当時の医学や戦がどういうものかがよくわかる。

物語とは関係のない話だが、第一部で寿安と村の若衆たちが飛礫(つぶて)を投げて森の教会堂に侵入する甚右衛門を防ごうとするシーンがある。
このくだりを読んで歴史学者の網野善彦が「飛礫を打つ」ことに対して、いくつか考察していたことを思い出した。
いまでは石を投げて戦を行うというのはあまりピンと来ないが当時の戦においては飛礫の応酬が行われた。
ちなみに武田信玄の軍勢には飛礫隊というのがいたらしい。

閑話休題。
この小説を読むまで天草四郎や島原の乱のことなど何も知らなかったことに気付かせてくれた一冊である。
ちなみに、個人的には前作の『黄金旅風』のほうがロマンを感じさせてくれる作品で好きです。

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