村上龍の『半島を出よ』である。
発行されたのは2005年。
本作は第59回毎日出版文化賞及び第58回野間文芸賞を受賞。
上下巻で1000ページを超える厚い本だ。
ものすごく久しぶりに読む村上龍の作品である。
多分、『愛と幻想のファシズム』以来だと思う。
舞台は2011年。
日本は経済・財政が破綻し失業者が急増。
国民が不安を抱えるなか、アメリカが中国と接近したことで、世間には反米ムードが高まっていた。
プロ野球が開催されている福岡ドームが、北朝鮮の特殊戦部隊員9名に占拠される。
このところ北朝鮮の核放棄を求めたり、アメリカが北朝鮮に金融制裁を実施したりと、タイムリーな作品ではある。
物語は北朝鮮の兵士が博多を占拠するというプロットを軸に、登場する人物それぞれのエピソードや物や事象の機能や特徴やスペックで物語が修飾されている、そんな作品である。
一歩間違うと、福井晴敏の『亡国のイージス』ような軍事スリラーであるが、決してこの作品を軍事スリラーということはできない。
なんとなく、昔、ジョン・ミリアスが監督した『若き勇者たち』というアメリカ映画を思い出した。
アメリカの田舎町住む少年少女たちが協力して、侵攻してきたソ連軍たちと戦うというような物語で、特殊な状況におかれた少年たちの人間ドラマといった映画だった。
登場人物は多いし情報量も膨大だが、スラスラ読める。
これは作者の力量というものがあるが根幹をなすストーリーが非常にシンプルなことが大きい。
プロットに破綻がなく予定調和的にエピローグを迎える。
多分この辺りが、昔の村上龍の作品に親しんだものには違和感を与えるのだと思う。
作者の興味は数年前から政治や経済、金融といった分野にベクトルが向いているのはJMMといったメールマガジンをみても確かだ。
そうした方向での知識や情報を総動員している感じだ。
金融や経済、政治や軍事、果ては酒やジャズといったところまで情報の洪水である。
個人的に「よい小説か?」と問われると、なかなか難しいところだ。
決して万人にお勧めできる小説ではない。
この小説を読んで初めて知ったことは多いが、そうした情報以外に何が残ったのだろうか?
ところどころで作者の考えがストレートに反映している部分があり、それに多少共感できるところが救われる。