藤井太洋『オービタル・クラウド』
藤井太洋『オービタル・クラウド』
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SF関連の文芸賞を総なめ

藤井太洋の『オービタル・クラウド』です。
その昔、角川文庫の夏のキャンペーンのコピーで「時間がないんだ青春は。」というのがあった(古いね。どうも…)が、青春時代に余っていたのは時間ばかりで、五十歳も超えると、そのコピーがリアルというか切実に感じられてくる。
つまり、「時間がないんだ老年は。」という訳である。
そんな訳でわざわざ時間をかけて読む本は、いかんせん、はずしたくない。
となると、どうしても様々な文芸賞などを受賞した本に触手が伸びる。
本作は第35回日本SF大賞、第46回星雲賞日本長編部門、ベストSF2014国内篇第1位という輝かしい実績を持つ。
そんなわけで、SFという目で見てしまいがちだが、軸となる骨組みはスパイやミリタリーが登場する冒険小説といっていい。

舞台は近未来

舞台となるのは2020年の12月。
本書が発表されたのは2014年なので6年後の世界を描いたわけである。

主人公の木村和海は渋谷の共同オフィスで「メテオニュース」という流れ星の予報サイトを運営している29歳のweb制作者。
彼の相棒となるのが沼田明利とういうコンピュータのプログラミングやハードウェアにめっぽう強いエンジニアの若い女の子。
そして、彼らの敵となるのがマッドサイエンティストのような天才プログラマーとして登場する沼田明利のおじさんの白石蝶羽。

和海は衛星軌道上のスペースデブリ(宇宙ゴミ)の不審な動きを発見する。
これは衛星兵器なのだろうか!?
暗躍する北朝鮮。
そして、和海と明利はJAXAやNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)、CIAを巻き込んで真実を解明し危機を阻止しようと活躍する。

JAXAが研究中の構想が登場

小説の中で重要なアイディアとして登場するスペーステザーは実際にJAXAが研究をしている宇宙船や衛星の推進方式である。
タイムリーなことにJAXAは先月の12月9日(金)に打ち上げられた宇宙ステーション補給機こうのとり6号機を使い、このスペーステザーという仕組みを利用して「こうのとり」の機体を地球に落下させ大気で焼滅させる実験を行おうとしている。
この方式が成功すればスペースデブリと言われる宇宙ゴミを落下させ無害化する先鞭となるはずだ。

大人のSFというよりはジュブナイルといった趣

SF関連の文学賞を受賞するだけあって、コンピュータや宇宙に関する専門用語が、かなりの頻度で飛び交う。
上巻の巻末には用語解説があるが慣れない人には、ちと、辛いかもしれないが、SF好きにはどうということはないだろう。
この手の小説で二十代の青年が主人公で八面六臂の活躍だったりすると、どうしてもリアリティや重厚感に欠ける。
小説自体は面白いとは思うが、傑作かといわれると…。
ビジュアルが派手なので、漫画や映画の原作にはよいのではなかろうか。

本の帯には「『火星の人』の次はこれを読め!」とある。
『火星の人』は近いうち読んでみよう。

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