『一路』浅田次郎
浅田次郎『一路』
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浅田次郎の『一路』である。
これまでも、浅田次郎の作品はいくつか読んだことがあるが、中国を舞台としたシリアスな歴史ものなどとは趣を異にするコメディータッチの時代劇である。
これを読むと「お金を取れる作家と言うのは、こういう作家なんだろうな」とつくづく思う。
調子のよい語り口、笑いと涙を織り交ぜた巧みな構成、個性の際立つ登場人物たち。
上手いものだ。
装丁の賑やかなイラスト? は、現在の日本現代美術界を代表する一人の山口晃。
いかにも山口晃らしい画だ。

主人公は西美濃(今の岐阜県)田名部郡で代々、供頭(ともがしら)という参勤交代の折にその準備からスケジュールといったすべてを差配する家に生まれた十九歳の小野寺一路。
主家の蒔坂左京大夫(まいさか さきょうのだいぶ)は幕府の旗本ではあるが、大名と同等に扱われる交代寄合表御礼衆を務めるため参勤を果たさなければならなかった。
父が火災で亡くなったという報を受け、急きょ国元に戻った一路。
一路は家督を相続し供頭という役目に就くが、父から参勤交代の差配については何も教わってはいなかった。
頼るは焼失した家から見つかった古い参勤の「行軍録」。
これを見つけた一路は、この記録に書かれた古いしきたりに則って参勤を差配することを決心する。
一方、蒔坂家中ではお家乗っ取りの陰謀が進行している。
参勤の行列が進むにつれ起こるハプニングや事件…。
一路は無事にお役目を果たすことができるのだろうか?

ちなみに後半に登場した加賀百万石のお姫様の件は、必要あったのだろうか?
そうした部分も含め、後半は少々緻密さにかける気がしないわけでもない。
それでも、面白いことには間違いない。
蛇足ながら、上野国安中城主として登場する板倉勝殷(いたくら かつまさ)は実在の人物で、実際に安政遠足という安中城から碓氷峠まで走らせた徒歩競走(マラソン?)が実際に行われたという記録が残されている。

今年の夏にNHKでドラマ化されたようだが、残念ながら小生は見逃してしまった。
この作品を読み終えると、ドラマを見逃したのがつくづく悔しく思える。


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