デイヴィッド・ダフィの『KGBから来た男』である。
タイトルからするとスパイアクションモノを想像するが、チャンドラーの系譜に連なるような、かなりちゃんとしたハードボイルドだった。
ミステリーでロシアが登場するとなれば、当然、vsアメリカ(西側)というエスピオナージの構図が定番だったが、本作はニューヨーク在住のKGBでスパイをやっていたという変わり種の探偵が主人公。
いやはやKGBの元スパイがニューヨークで探偵をやるというのだから…。
時代は変わったものだ…。
いやが上にも冷戦後の世界と「今」という時代の趨勢を感じさせる。
007シリーズを書いたイアン・フレミングはロシアのふがいなさを、あの世で嘆いているだろう。
主人公のターボが銀行の会長から誘拐されたの娘の救出を依頼されるところから物語は始まる。
舞台はニューヨークだけどロシアマフィアが関わったりと、ロシア人の名前がたくさん登場する。
こうしたシチュエーションにはアイディアを感じるし、ここに目を付けた作者には拍手を送りたい。
仕事の依頼者の奥さんが主人公の元妻とか、相棒の天才ハッカーがネットを駆使して情報を収集するあたりは都合がよすぎる感じもするが、まぁ許容範囲。
設定はひねりが効いているが、しかし、ハードボイルドとしてはかなり正統派だ。
ユーモアもある。
もっと評価されてよいミステリーだと思った。