久坂部羊の『無痛』です。
東京へ出掛けた行き帰りの新幹線の中でイッキに読みきりました。
面白かったです。
…が、ちょっとグロい感じもあります。
『羊たちの沈黙』など一連のハンニバル・レクターのシリーズにも似たニュアンスがあります。
タイトルは「無痛」ですが、被害者が惨殺されるシーンは克明かつ事細かに描かれており、読んでいてこちらがキリキリと切り刻まれるような痛みを感じそうなほどです。
正直、このシーンは読んでいて気分が悪くなりました。
さすがに作者は現役の医師というだけあります。
物語は結構、込み入っています。
神戸で診療所を開く為頼は、人の外見を見ただけで症状が判る(このあたり不思議)という医師である。
ある事件をきっかけに為頼と知り合った臨床心理士の菜美子は自分の担当する少女、サトミの診察を依頼する。
サトミは神戸で起こった一家四人の殺人事件は自分が犯人だと告白したのだが、菜美子にはサトミの告白が信じられなかった。
また、菜美子には離婚した夫の佐田が執拗に付きまとっていた。
一方、関西有数の総合病院、白神メディカルセンターの院長、白神も為頼と同様の資質を備えていた。
白神の下で働く伊原(イバラ)という知的障害のある痛みを感じない無痛症の職員は白神を絶対的な存在として敬っていた。
ある日、伊原は過去にいた施設で知り合い好意を抱いていた菜美子が佐田に付きまとわれているのを知る。
この物語の大きなテーマの一つとして取り上げられてるものに、刑法三十九条「心神喪失者の行為は、罰しない。心身耗弱者の行為は、その刑を減刑する」というものがあります。
精神の障害や薬や酒で善悪の判断がつかない状態で行われた犯罪は無罪、またはその刑を軽くするというものです。
この問題についても掘り下げて描いている箇所があり、いろいろと考えさせられます。
裁判員制度の実施が決まりましたが、こうした論議も今後大きく取り上げられそうな予感がします。